週刊メディアヌップ#62
気になった映画・本・言葉・民俗学
余裕ができたので、気まぐれに発行します。
気になったもの(映画・本・言葉・民俗学)
今年になって考えたことを記録します。
映画『Black Box Diaries』(伊藤詩織監督)
1月9日やっと観てきました。そのとき、こんな感想をXに書きました。
映画の冒頭、記者会見について家族から反対されていることがわかり、また、時代的にもMeToo運動の前の出来事であることが思い出され、これがいかに孤独な戦いであり、いかに勇敢な行動であったのかという事実に震えた。そして、誰にも真似できないような英雄的な勇敢さに胸を打たれました。
一番いいのは、このような作品を生み出す必要のない世の中であることですが、その世の中に抗った『Black Box Diaries』という作品が生まれてくれてよかった。『Black Box Diaries』のある世界は、それがない世界よりも、孤独や困難や理不尽に強く立ち向かうことができる。映画を観終わった後、自分のなかにそうした勇敢さが宿っているのを感じます。
上映館が拡大して、観る人が増え、『Black Box Diaries』がある世界が広がることを願います。そのように応援したい気持ちになって、感想をポストすることにしました。
ちなみに、こうした蛇足も必要なんだろうと思って書きます。
本作の上映をめぐるトラブルについては、どちらの意見にもよく目を通しました。日本での公開から今日まで時間があったことから、毎日のようにさまざまな意見を読みました。その結論が、先の感想です。
私は、フェミニズムを「弱者が弱者のままで尊重される社会を目指す思想である」と学びました。その意味で、この映画は、女性の性暴力サバイバーだけでなく、声の小さな弱者や少数者すべてに力を与えるものとしておすすめしたいと思います。
こうした意見に対して、いくつも反対意見がつきます。代表的なのは、こういうものです。
「ルールを破ってもやりたいことをやればいいという考えなんですね?」
「弱者? 本物の弱者は、弱者なので声をかき消されていますね」
「性暴力サバイバーだけでなくすべてに力を与えるものだとするならば、なぜ多くの性被害者・サバイバーが作品の内容や制作プロセスに対し、公に疑問を呈しているのですか?」
それぞれの反論に対して、さらに反論することも可能でしたが、私はしませんでした(興味がある方は、調べてみてください)。なぜならば、私が「おすすめ」したり「応援」したりするときは、それに含まれる罪をも引き受けるつもりになっているからです。誰かを傷つけるかもしれないことをわかって、おすすめしたり応援したりします。だから「この作品には問題がないんだ」という反論には意味を感じない。XのようなSNSで「おすすめ」や「応援」をするたびに、このような責任を感じるのは、なかなか生きづらくはありますが、でも、言葉ってそういうもんだろうという考えを捨てられないのです。
繰り返しになるけれど、この作品によって「孤独や困難や理不尽に強く立ち向かうことができる」という良き作品だと思います。
映画『トレイン・ドリームズ』
Netflixで見た映画『トレイン・ドリームズ』がすごくいい作品だったのでお伝えしたい。
冒頭は、静かで美しい映像からはじまる。事前情報なしで見始めたので、いつかこれが劇的な破滅を迎えるのではないかと思って身構える。しかし、何事も起こらない。この静けさがほぼ最後まで続く。ところが最後に主人公のなかに大きな「統合」が起こる。そこにこの作品の劇的さがある。
この「統合」がなにか、AIに解説してもらいました。
ここでの「統合」は、
バラバラだった感情・記憶・価値観・人生経験が
主人公の内側で一つの意味や理解にまとまっていくこと
を指しています。
もう少し具体的に言うと、
過去の出来事(喜び・喪失・後悔)
自分では理解しきれていなかった感情
世界や人生に対する見方
こうしたものが、「そういう人生だったのだ」「これが自分なのだ」と受け止められる形に落ち着いていくこと。外側で大事件が起こるのではなく、内面での認識や受容の変化が起きている、というニュアンスです。
ありがとう。私はまさにそういう意味で「統合」という言葉を使いました。
いい映画です。おすすめします。
https://www.netflix.com/title/82020378
『オルタナティブ民俗学』(島村恭則・畑中章宏)
民俗学の入門書は多々あるんですが、私にはこれが一番しっくりきた。
ポイントのひとつは、これが「民俗学史」であること。「民俗学とは(いま)何であるか」ではなく、「民俗学はどうであったか」をクロニクルに記述してくれるスタイルが、断片的な知識だけはもっている自分のような読者にとはとてもよかった。
もうひとつのポイントは、「オルタナティブ」という語感を裏切って、これが民俗学史の正史といえるような内容になっているところ。なぜなら、民俗学がそもそもオルタナティブを内包するようなジャンルだから。アカデミズムのなかでだけ研究されるものではないジャンルだからこそ、そういうことになる。私のような郷土史家の端くれをも包摂して励ましてくれる本でした。
読み終わった直後、印象に残っているのは本文の結び。
先端だけを見て生み出されたような、もしかすると薄っぺらいかもしれない知識を相対化する
それが民俗学だと。いいね。民俗学に興味を持ってあれこれ読んでいるうちに、自分のなかにもそういう価値観が自然と芽生えていたことに気付かされた。
ル=グウィンのスピーチから
藤井セイラさんのXの投稿で知りました。
厳しい時代がきます。恐怖の多い社会、使うことを迫ってくる技術の中で、別の生き方、新たな希望を描く作家の声が必要になります。自由がどんなものだったか記憶しておける作家が必要になります
ル=グウィンの言葉は、『湖の底で戦争が始まる』のエピグラフにもしましたし、小説を書く時にいつも唱えるマントラにもしています。
We will need writers who can remember freedom.
新刊を出すことで生活の糧を得ているという一部の職業小説家を除いて、作家であると自認するすべての人にとって、自らが書く意味をはげましてくれる強い言葉だと思います。またあたらしいマントラ増えた、ということになりそう。
椎葉神楽NFT
遠野とともに民俗学のはじまりの地である宮崎県椎葉村。18日のNHKスペシャルで特集されたばかりですが、同じようなタイミングでNFTがリリースされていたので手に入れました。
https://shiiba.nishikigoinft.com/
椎葉村ってこんなところ。
今年こそ、いくぞ。
エイフェックス・ツインのYouTube月間リスナー数がテイラー・スウィフトを上回っていると話題に
まさか、と思ったら「YouTubeショートの多くの動画に、2001年のアルバム『Drukqs』収録曲「QKThr」が使われているため」だそうです。(詳細)
Aphex Twinが好きだというと、永野の「ベックとビョークを褒めなきゃいけなかった時代」的な価値観でいうと馬鹿にされそうだけど、本当にかっこよかったし、いまなおかっこいいと思っている。だから、TikTokでたまたまネタ的に消費されたとは思わない。そうなるだけの音楽の力があると思う。
アレフガルドの地政学
話題の記事です。
【ドラクエ1世界解剖】アレフガルド地政学① 「閉ざされた環状大陸」がもたらす絶望と、勇者という名の「斬首作戦」
昔から、『ウルトラマン研究序説』や『磯野家の謎』のように、サブカルチャーをアカデミックに真面目に解説するというコンテンツは人気ですが、そのドラクエ版。ちょうどいま『ドラクエI』をやっているので、楽しい。
滅亡するかもしれない人類のための倫理学
Kindleで読んでおもしろかったので、紙で再購入して付箋をはりながら再読。それくらいおもしろい。イーロン・マスクやピーター・ティールの考えることが気になって、それに対抗する言論を自分のなかに持ちたいと思っているような人(私です)にとっては、考える材料としてとても刺激的。
ちなみに、本書は『風の谷のナウシカ』の漫画版のラストシーンの読み解きからはじまります。と書くと、とっつきやすく感じる人がいるかもしれません。読んだ方がいたら、語り合いたいです。
海の民俗学『津波のまちに生きて』(川島秀一)
気仙沼の民俗学者、川島秀一さんの名著と呼ばれる作品。津波によって定期的にリセットされてしまう土地において、民俗学が果たせる役割のなんと大きいことか。
なお、後半は、海から見た遠野の話や、呪術の話がでてくるのがおもしろい。個人的に興味を惹かれたのは、「未来を予測するのは縁起が悪い」という考え方。たとえば、「大漁を期待する」言葉が、忌み言葉になるという。自然に属することを人間がどうにかできると思ってはいけない、というようなことらしい。おもしろい。現在書いている中世を扱った小説にも取り入られそうな呪術に対する考え方だ。
いまはこれに続いて、川島さんが影響を受けたという『黒潮の民俗学』(谷川健一)を読み始めたところ。
あとがき
遠野物語カードゲーム「花泥棒に気をつけて」第2弾の制作が順調に進んでいます。
こうしたボードゲームを開発する作業というのは、世界観(物語)と、アートワークと、ゲームメカニズムの3つを統合的に練り上げていくことなんですが、それが無類に楽しい。そして、それを楽しいと感じられるだけの特性と経験が自分にあることがわかり、それがまた楽しい。その内容がどういうものかというと、実は今回のニュースレターでとりあげた話題すべてに関係があります。おもしろそうでしょう?
それではまた次回。気が向いたら配信します。







