いつもは会員向けの「日乗」を、今回は一般向けに開放します。
午前5時起床。ポッドキャストの編集を30分。前夜のうちに出しておいた荷物をパッキングし、息子と「いってきます」のキスをして出発。
7時16分東京駅発の東北新幹線で新花巻へ向かい、釜石線に乗り換えて遠野着10時50分。途中、綾織方面の山々を見てその美しさに感が堪えなくなる。七色の緑に輝いている。出涸らしの茶葉やブロッコリーのような緑、茹でたての枝豆やオリーブオイルのような緑。山々の表情と奥行きがブロック状の色で塗り分けられていて、まるでセザンヌの絵画のよう。ときどき藤の紫がハイライトを加えているのもなお素晴らしい。私は、その美しさはどうせ写真には映らないだろうと思ってカメラを手に取る気になれなかった。
実家まで歩き、あらかじめ送っておいた荷物を解く。今回はAmazonのインフィニティチェアとIKEAのフロアスタンドとColemanの焚き火台。書斎やキャンプで使うつもり。
お昼。チャルメラ。食後、三丸に行って麦茶と氷とソフトサラダとクッキーを買い求め、午後の農作業のおやつとする。今日はリンゴ畑で枝打ちと草刈り。TONO DAOから6人が参加した。
雪に閉ざされた真冬からはじまった「無摘果リンゴでつくるハードサイダープロジェクト」は、いよいよ葉と花の繁る季節となり、目に留まるものすべてが美しい。山裾のなだらかな斜面にひらけた果樹園は陽当たりと景観に恵まれて、作業の合間にふと遠くを見ると多幸感が湧いてくる。詳しくは、TONO DAOのnoteやニュースレターに書く予定。
予定通り17時前にすべての作業を終えて解散。私と友人は、連れ立って「天の湯」へ。何度でも書くが、天然ラドンのしっとりしたお湯と冷水で交互浴しながら、郷土のなまりによる会話に耳を澄ませるのがなによりの楽しみ。いつかこの会話を録音して聞かせたいと思い続けている。
帰宅し、車を置いて酒場に向かう。そのときふと西の空を見て、たまらない気持ちになる。どこにでもある日没の風景なのかもしれないが、私の実家である建設会社のトラックや重機が仕事を終えて帰ってきて、それら金属のかたまりの上にかかる夕暮れは、とりわけ美しく感じられる。題するなら「一日の終わり」。ちなみに、下組町のサンセットは遠野七景にえらばれるくらいには定評があるので、まんざら贔屓目でもないようである。
打ち上げは遠野醸造。今月で5周年、そして6年目。めでたい。この場所ができてくれて本当によかった。
1杯目は迷いなく、限定醸造の「ハードサイダー」。今秋に自分たちのプロジェクトから生まれる味に思いを巡らせながら味わう。
満員の店内で隣に座っていたのは、ドイツからやってきたというEliaさん34歳。こちらに英語が通じるとわかると話しかけてきて、東京→遠野→大阪→京都→東京を4週間でめぐるとのこと。これら三大都市と遠野が並んでいることを誇らしく思う。
職を尋ねる印刷の技術者だというので、2020年に「世界でもっとも美しい本コンクールで銅賞を獲ったよ。コロナのせいでライプツィヒの授賞式には出られなかったけど」と言ったらめちゃくちゃ驚いて喜んでくれた。「ライプツィヒには友達がたくさんいるよ! 今度来たら連絡くれよ!」とも言ってくれた。そりゃ驚くし、喜ぶよね。でしょうとも。まさか遠野でそういう人に会えるとは思わないはず。Instagramでフレンドになって、いろいろ情報を教えた。まじでライプツィヒにリベンジしようかな。
二次会で地元の同級生と合流して「NoTO General Store」へ。
するとそこに、私がオンラインで授業を担当した職業訓練校の卒業生がいて、授業中に話せなかったあれやこれやを話す(くだけた話ですが悪い話ではなので関係者は安心してください)。今日は一日が長い。どんなことも起こる。
ちなみのこのお店は、ただのバーではなく、ハイレベルなアパレルを展開するメーカーでもあって、新作のIHATOV(イーハトーヴ)Tシャツをおみやげに買って帰る。
気持ちのよい夜の空気をすいながら歩いて帰る。今日の「日乗」を書くのを楽しみにしながら。