ささきる(@sasakill)が気になったニュースにコメントを添えて、1週間分まとめてお送りします。
暖かくなってきたので、べランドのビオトープにいるメダカたちがぴちぴちしていて、飽きずに眺めています。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年4月6日〜2022年4月12日
冒頭に置いてある何気ない簡潔な説明が気に入っています。DAOとはつまり「見知らぬ人がインターネットを介して一緒に作業するための安全で効率的な方法」です
DAOは目的ではなく手段ですから、「見知らぬ人がインターネットを介して一緒に作業する価値のある目的」が見つけられたら、そのときがDAOを手段として思い浮かべるタイミングです。
この記事では、その目的のバリエーションが挙げられています。プロトコル、サービス、プロダクト、ソーシャル、コレクター、投資、教育、そしてメディア。読者であればご存知のように私の関心はメディアにあって、その手段としてここ最近はDAOに夢中です。
ナラティブという言葉になにやらネガティブな意味が染みつきつつあるような状況に対して、それを更正するような言説。強く支持したいと思います。
「ナラティブ」という言葉は本来ニュートラルであり、科学的根拠のないネガティブなナラティブに対しては合理的なナラティブを構築する必要があります。それは決して勇ましい断定調ではなく、やはりデータや理論、科学的根拠と科学的方法論に基づいた言説の有機的な積み重ねにあります。それが本来の科学の体系です。この共通理解を多くの方と共有するために、最後に『ナラティブ経済学』から下記の文章を引用して、本稿を締めくくりたいと思います。
・政策担当者は、もっと合理的で公徳心のある経済行動を確立するような、対抗ナラティブをつくり出し広めるよう努力しなくてはならない。対抗ナラティブは、もっと感染力のある破壊的ナラティブよりも効果を発揮するのが遅くても、いずれは有害ナラティブを矯正するものになる。
ロバート・シラー: ナラティブ経済学 経済予測の全く新しい考え方, 東洋経済新報社 (2021)
拙著『僕らのネクロマンシー』では、主人公のふたりが物語ることを巡って対立します。作中では「ストーリー」を語る者と「ナラティブ」を語る者という対比を用いたのですが、シラーの言葉によればそれは「破壊的ナラティブ」と「対抗ナラティブ」と言い換えられそうです。スローなんだけど、強力な語り。
今週、AIに関心を持っている人に大きな衝撃を与えたOpenAIによる「DALL·E 2」。私はここのところすっかりWeb3に夢中になっていますが、身の回りの技術者たちは引き続きAIに夢中で、彼らの熱狂的なコメントによって私の気持ちもこちらのほうににまた引き戻されました。なんてエキサイティングなことが起こっているんでしょうか。この記事は、それを日本語で説明してくれているものの一例としてあげました。
4. [翻訳:STEPN公式記事]全てのP2Eゲームは、"ポンジ"なのだろうか?
日本でも人気のWeb3サービス「STEPN」の運営チームが、「それってポンジ・スキーム(いわゆる投資詐欺的なものなんじゃないの?」という疑問について長文で回答した内容。
その内容は、「STEPNがポンジかどうか」という議論ではなく、「あるゲームがポンジ的になるのはどういうときか」「ポンジ性を超えて価値ある体験を生み出すにはどうしたらいいか」を考える議論になっています。私はユーザー登録だけしてプレイはしていない勢なので、ふむふむと思って読みました。
私がなるほどと思ったポイントは、最後の部分で「価値ある体験を私たちで作っていきましょう」とユーザーに呼びかけているところです。運営とユーザーのこのような関係こそがWeb3の特徴だよなと思いました。
5. Web3化して注目を浴びるSuperlocal
Foursquare/SwarmのWeb3版と紹介すればわかりやすいSuperlocal。私も今週から使い始めました。
ロケタッチを作った私としては、このようなチェックイン系のサービスがどのような進化を遂げているかに興味を持ち続けています。そこで、新しいなと思ったポイントひとつと、変わらないなと思ってポイントをひとつずつ紹介したいと思います。
まず新しいポイントから。ホワイトペーパーによれば、ベニューのオーナーがNFTをドロップするための機能を提供予定だそうです。NFTによって実現できる簡単なアイデアであるけど、これが普及した世界を考えるのは実に楽しいですね。
地元企業が独自のNFTドロップを行うためのツールを構築する予定です。その見返りとして、ユーザーはある種の忠誠心のインセンティブ(コーヒーショップでの毎日の無料コーヒーなど)を受け取ります。最初のドロップで収益分割を行い、NFTが転売されたときにビジネスによって収集されたロイヤルティの10%を受け取ります(たとえば、コーヒーショップは再販で100ドルのロイヤルティを受け取り、10ドルを収集します)。
そして変わらないこと。
スーパーローカルは、人々にコミュニティのより深い感覚を与え、現実の近くの世界に属することを目的として、日常生活をゲームに変えるソーシャルプラットフォームです。
これはロケタッチをつくるときにチームメンバーがよく話し合ったことであり、おそらくFrousquare/Swarmのチームにとってもそうだと思います(読んだことないけど、絶対にそういうことを考えているはず)。近頃の言葉でいえば「縦の旅行(カズオイシグロ)」を生み出すべくナッジするサービスだというわけで、今後が楽しみです。
今週から配信を開始したポッドキャストのシーズン3「UGC民俗学 - 失われたWeb1.5を求めて」の企画のためのWinampを検索したら、にわかには信じられないウェブサイトが表示されました。見慣れた紫のグラデーション、見慣れたあのフォント、そしてNFTの文字。どう見てもWeb3のサイトで、TLDがxyzじゃないのが不思議なくらい。ドメインを乗っ取られたかと心配になりました。
でも、あらためてこの「NFT Initiative」というページを見ていると、当時Winampの周辺に派生していたカルチャーと、いまのWeb3のカルチャーに思いも寄らない親和性があることに気づきます(かっこいいスキンを探してネットを徘徊したあの感じ!)。
ちなみに、韓国が2000年台初頭に生み出して世界に衝撃を与えたミニホムピ「cyworld」によるアイデンティティをアバターやBGMで飾る文化は、今のオンチェーンアイデンティティに通じるものがあります。技術が変わっても、人が求めるものは変わらないことを思い出させてくれる話でした。
「STEPN」「Superlocal」「Wimamp」とサービスの話が続きましたが、こちらは企業にとってのトークンの話。自分の勉強のために取り上げました。
ちなみにこうした記事はTwitterではいくらかシェアされるけど、はてブだとあまり反応が薄いようで、いまのところゼロブクマでした。世間からのズレのバロメーターにしようと思います。
8. 本『ベリングキャット デジタルハンター、国家の嘘を暴く』
調査報道ユニット「bellingcat」のリーダーであるエリオット・ヒギンズの著書。翻訳版が3月に出たばかりです。原著が書かれたタイミングはウクライナ戦争より前なわけですが、これを読むことで、彼らが生み出したオンラインのデータジャーナリズムの手法が目前の情報危機にどのような貢献を果たしているかがイメージできます。
ベリングキャットのことを説明するのに、一部引用してみたいと思います。
オープンソース調査というのは、つまり「ウィキリークス」がやっているようなことか、と思っている人もいる。これはぜんぜんちがう。「ウィキリークス」は機密情報をリークするのが目的だが、オープンソース調査は公開された情報を分析する手法だ。
9. テレビやSNSの書き起こし=こたつ記事が蔓延するのは読者のせい? スマートニュースの「媒体ガイドライン」が突き付ける課題
番組そのものは見れておらず、この記事だけを読んで感想を書きます。ふたつのことを思いました。
まず、ここで使っている「コタツ記事」という言葉を考えるときに、「オープンソース調査」と「ソーシャルメディアジェネリック」という概念を用いてみてはどうでしょうか。前者は、前項の「bellingcast」の話で紹介した、公開されている情報だけを使って記事を書くことです。後者は私の造語で、InstagramやTwitterの投稿を埋め込んで代替品となる記事を再生産する手法です(ちなみに、名付けたのは私ですが、ソーシャルメディアをリプロダクトする、というような言い回しは存在します)。それだけでかなり議論が整理されると思います。
これは単なる言葉の話のようでいて、実はとても大切な話だと思うわけですが、それを説明するのに、為末大さんのブログからこんな話を引いてみたいと思います。
視座が高い集団は当たり前のレベルが高い。目標が勇ましかったり、ビジョンが美しいとつい人は惹かれてしまうが、目標の高さよりもむしろ言葉にもされていない当たり前のレベルの方がよほど競技力に影響していたと感じている。例えば足腰ではなく大腿四頭筋、ハムストリングス、中臀筋など分けて会話するのが当たり前の集団では、これらの役割を分けて説明しなければ会話についていけない。結果これらの筋の動きや役割を理解していく。
コタツ記事という言葉しか使っていないと、それこそコタツ議論にしかならないので、まずはみんなで脱コタツしよう、と、そんな言葉遊びで今週は終わりたいと思います。また来週。
あとがき
ポッドキャストの新シーズンがはじまりました。いまのところ6話まで続く予定です。