ささきる(@sasakill)が気になったニュースにコメントを添えて、連休中に配信をスキップした分も加えて2週間分まとめてお送りします。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年4月27日〜2022年5月10日
1. 北海道余市町とあるやうむ(北海道札幌市)およびトラストバンク、NFTアートのふるさと納税の返礼品を「ふるさとチョイス」にて5月7日に提供開始
NFTをふるさと納税の返礼品にする初めての事例。手続きとしては、あるやうむ社のサイトで希望のイラストを予約し、整理番号を入手したうえでふるさとチョイスから寄付をする、というもの。72時間以内に寄付がなされなければ権利を放棄したとみなされキャンセル待ちをしている人に順番が回ってきます。ちなみに私は一歩で遅れて、キャンセル待ちの列に並んでいる状態です。予約サイトはこちら。
デジタルコンテンツを返礼品にできること自体におもしろみがあるのはもちろん、それに付与するUtilityを考えるのが楽しいですね。たとえば、観光についてのなんらかの利便性をデザインすることは難しくないですし、関係人口を増やしたい地域にとって、コミュニティやカルチャーに働きかけるられるNFTはさまざまな用途が考えられます。ぱっと見から受ける印象以上に、ふるさと納税とNFTは相性がいいかもしれません。自分も何か企画してみようと思います。
2. ポストサブスクはNFTから生まれる──Moonbirds / QUARTZ
話題のNFT「Moonbirds」が行っている工夫についての解説記事。他にも多くの記事がありますので、目についた42 CRYPTOのこの記事もリンクします。
この記事から私がとりあげたいのはこの部分。
圧倒的な成果を挙げたMoonbirdsから、新しいビジネスモデルの発明について考えを巡らすこともできるでしょう。広告、サブスクリプションに次ぐ「第三の矢」です。
これを図にして捉えると、次のようになります。つまり、低価格で多数に訴える広告モデルから、高価格で少数に訴えるNFTモデルまで、複数を組み合わせて考えようという話です。
NFTをめぐる議論になるとNFTか否かといった極論に走りがちですが、実際には、さまざまな手法の組み合わせになっていくはずです。Moonbirdsや、それを生んだPROOF、およびそれをめぐる解説記事はその検討材料にぴったりです。
3. NFTは「マイナー」ではなく「クリエイター」のためのもの大事なのは「NFT=非中央集権」と思考停止しないこと / logmi Tech
一般社団法人ジャパン・コンテンツ・ブロックチェーン・イニシアティブ(JCBI) 代表理事の伊藤佑介さんへのインタビューの後編。これが実に自分の気分と一致していたので、少し長くなってしまいますが引いてみたいと思います。
今一度考えるべきことは、はたして本当に、なにか団体や会社や組織のような主体が存在しているものが社会においてすべて悪いのか?ということです。そもそも団体や会社や組織は何かといえば、一人ひとりの個人が責任を持って何かをしようと思って集まっている、個人の集合体です。それにもかかわらず、「団体や会社や組織のような主体は中央集権的であるためすべて悪い」という考え方があるとすると、それは極端すぎると常識的に誰もが思うでしょう。
当然人間は、必要に際して集まって力を合わせてなにかをすることはあります。個人と集団というのは一概に相反するものではなく、実際にはそこには濃淡があります。
ブロックチェーンという技術がすばらしいということではなくて、大事なのは、ブロックチェーンの背景にある、みんなで運営して納得感がある、という考え方が受け入れられているところなのです。
もしかするとその支持されている考え方をきちんと捉えられれば、ブロックチェーンではなくても、組織運営のあり方や制度で解決できることもあるかもしれません。
白か黒かの二項対立ではなく、微妙なスペクトラムを説明しようと試みる姿勢。手段と目的を取り違えずに本質を見ようとする姿勢。過剰な期待がしぼむときは必ずくると思うので、そのときに本物が生き残るために大事な考え方だと思いました。
4. 1999年、インターネットの未来を予言していたデヴィッド・ボウイ【和訳】
コンテンツの形式を変えて度々話題になるデヴィッド・ボウイ1999年のインタビュー。最近またバズっていましたね。文章としてはGIZMODOのこの記事が読みやすいと思います。
指摘しておきたいのは、1999年当時、デヴィッド・ボウイだけがこうした発言をしていたわけではない、ということです。World Wide Webが発明されてすでに10年が経っていますので、来たるべき社会が描かれた記事や本や論文や小説はありました。それらを読んでいれば、デヴィッド・ボウイでなくてもこのように答えることはできる時代だったということです(ボウイがそうしたものを読んでいたのか、それとも自分でひらめいたことなのかはよくわかりません)。
ボウイの発言が驚きではないことに思い至ると、そこから逆に、未来の社会は意外と言い当てられる、とも考えられます。今日も誰かが、突飛に聞こえる言葉で未来の社会を言い当てているかもしれません。
5.『ダンジョンズ&ドラゴンズ』で「40年間」にもわたりプレイ中のキャンペーンが注目集める。ゲーム内時間で230年が経過する壮大なシナリオにD&D
ポッドキャストの第1話に『ロードス島戦記』およびTRPGを選んだメディアヌップとして決して見逃せないニュース。なんと素晴らしい。心の底から尊敬し、憧れます。
もちろん、これを40年続けるのは並大抵のことではありませんが、物語を遊び、世界を構築し、ルールをデザインしていくことは誰にでもできます。本当に誰にでもできるんです。それがTRPGです。だから私も、単に憧れているだけでなく、ほぼ四半世紀ぶりに活動を再開したゲームマスターをなるべく長く続け、一生の遊びにしようと思っています。
いまはまだ少人数で遊んでいるだけですが、次第に、その内容を外に向けても公開していきたと思います。
コンテンツ業界やメディア業界で話題の新書『映画を早送りで観る人たち』。昨年、現代ビジネスに掲載された記事(参照)のアップデート版です。
話題になっている理由のひとつは、これがZ世代を理解するためのテクストとして優れているから。それには同意しつつも、私がもっと深堀りして読みたかったのは、世代論ではなくメディア論による説明。
たとえば、「本」というメディアはあらかじめ読者がそれを自由に操作できるインターフェースを備えていることから、速読も読み飛ばしも自由であり、そのような読まれ方があらかじめ織り込まれています。音楽においても同様で、演奏会から離れて「レコード」や「CD」といった録音芸術が登場し、やがてトランジスタラジオやウォークマンやスマートフォンといったデバイスが市場を席巻するようになると、聞かれ方はリスナーに委ねられるようになります。それを拒否してトラック間の継ぎ目のないアルバム『LOVESEXY』を作るプリンスなどのアーティストはいましたが、当然ながら少数派です。
翻って映画はどうかというと、Netflixやスマートフォンより以前にDVDやVHSというメディアがずっと前に登場しているにも関わらず、やはりいまだに「映画館での上演」という形態を神聖視する感覚がまだ根深く残っているということなのかもしれません。映画だってパーソナルな環境で楽しまれるようになって久しいのに、いまだに時間芸術の王としての威厳を保っているといいますか。自分が小説を書くときには、どのように読まれてもいいと思って書くわけですが、映像作家は「こう見てほしい」と思うことが当たり前だと思っているとすると、威厳じゃなくてエゴに過ぎないのではないかと、ちょっぴりいじわるなことも思いました。
関連して、過去に書いた記事「ワールドセントリックとミーセントリック - スマホを手にした瞬間、私たちは即座に価値観を切り替える」をご紹介したいと思います。
テレビを前にしたとき、ワールドセントリックな私たちは、全国の天気図から地域の天気に絞り込まれていくのをあたりまえのように見ています。特に不都合を感じません。
一方、スマホを手にしたときのミーセントリックな私たちは、全国の天気図からはじまるインターフェースに耐えられません
つまり、自分を中心とした価値観と、世界を中心とした価値観の切り替えについての話なのですが、「スマホやパソコンで観る映画」と「映画館で観る映画」についても、同じことが言えそうです。
ちなみに、これを書くと何を擁護したのか訳がわからなくなりますが、私は映画もポッドキャストも早送りしません。
7. 関ジャムがランキングやってたらしいので俺も平成ランキング作ったった
ミスチルが選から漏れたことでも話題になっていた『関ジャム 完全燃SHOW』の「若手アーティストが選ぶ平成ソングベスト30」。それに対するカウンターエントリーがこの記事。隅々まで堪能させていただきました。
おもしろかったのは、音楽史観の変化について。
今の世代の出発点は宇多田ヒカル&椎名林檎と見せかけて実はキリンジであり、キリンジ「エイリアンズ」を出発点とし、Suchmos「Stay Tune」を経由したネオシティポップ文脈が存在すること(これを「関ジャム史観」とでも名付けよう)
しかしこれって「ある」ことですよね。日本語ロックのランキング1位といえば『風街ろまん』(はっぴいえんど)で揺るがないかと思っていたら、時が経つほどに『SONGS』(シュガー・ベイブ)が追い上げてきていて、あと10年もしないうちに追い抜いちゃうんじゃないかという状況があるのはまさに音楽史観の変化といえそうです。
さらに、ジャズについては、もっとドラスティックな再評価があるようです。
近年、度々耳にする言葉がある。「ジャズを生んだ場所のニューオーリンズはアメリカの南部ではなくて、カリブの北部だ。」との言葉を僕は何度も取材中に聞いた。アメリカのジャズ史の中でのカリビアンたちの貢献度の高さを再検証していく動きが進んだ結果、近年こういった言説が常識になり、それがまだ歴史を再編している状況がある。ソニー・ロリンズやディジー・ガレスビーがラテンに取り組んだ20世紀の作品の意味が変わってくるだろうし、その動きは、教育を変え、新たな世代のジャズミュージシャン達の作品の中に反映されている。パナマ人ピアニストのダニーロ・ペレスのジャズ界における存在感が日に日に大きくなっていることはその証明でもある。(柳樂光隆, ニュースQ 第1号)
話を元の記事に戻すと、CHAGE and ASKAの「Walk」を第2位に選んでくれて最高でした。デイヴィッド・フォスターの影響を受けて覚醒したASKAがプリンスの「Purple Rain」の影響を受けて作った代表曲です。私はすでにチャゲアスが第1位の音楽史観の世界線に生きていますので、早く世間が追いついてくれればいいなと思います。
8. Qを追う / 朝日新聞 ニュースの現場から
メディアヌップで度々話題にする「Qアノン」。朝日新聞がポッドキャストでシリーズ化してくれました。記事で読むしかなかったややこしい話が、音声でわかりやすく語り直されています。ロン・ワトキンスは今年11月の中間選挙に出馬予定です。それまでにぜひチェックしてみてください。
9. STEPNについてのあれこれ
話題のMove to Earnアプリ「STEPN」。私は「Ingress」も「ポケモンGO」も2日で飽きたような人間なので、やりかけて途中でやめてしまっていたのですが、その盛り上がりには興味津々です。そこでついこんなショートショートを書いてしまいました。
STEPNが実際にどんなサービスなのかを知るには、pajiさんのvoicyがおすすめです。体験記がシリーズ化されています。第1話はこちら。わかりやすく話してくれているはずなのに、笑っちゃうくらい複雑で、それも含めていまのブロックチェーンゲームのリアリティを知るのにぴったりです。
あとがき
連休の間にいろいろな制作が進んで、楽しみなことが増えました。