一週間分のニュースを振り返る作業がなんで続いているのか振り返ると、藤村厚夫さんの「Media Disruption」の影響に気づきました。自分もやり続けよう思います。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年5月11日〜2022年5月17日
1.「自動要約機能」だなんて、こりゃまたビジネスマンの味方ツール… #GoogleIO2022 / GIZMODO
Google I/Oで発表されたGoogleドキュメントの自動要約機能。ビジネス書に類するものを読むときの大幅な時間短縮に貢献してくれそうでワクワクしました。特に、英語のビジネス書は嫌になるくらい冗長なので、それを削って自分で速読しなくてもよい「ファストビジネス書」なんてことができればかなりありがたい。
2. Google licenses content from news publishers under the EU Copyright Directive
検索結果に表示されるニュースのプレビューについて、パブリッシャーへフィーの支払いをする準備があることを知らせる内容。対象は、ドイツをはじめとしたEU諸国から。詳細な設定はExtended News Preview(ENP)で行えるとのこと。
パブリッシャーからしてみれば、これまでGoogleの価値向上に貢献していたにも関わらず対価の支払いの対象とならなかった部分にこのような前進があるのは画期的といえますが、GoogleはENPの契約を背景にユーザーをますます自社サービスのなかに囲い込もうとするでしょうから、その点はおもしろくないことになる可能性があります。今後も関心を持って追いかけたいと思います。
3. 北町貫多クロニクル
「本の雑誌」6月号の特集「結句、西村賢太」に掲載されている労作「北町貫多クロニクル」。時系列に並べてみると、描かれなかったエピソードが多々あったことに気付かされます。あらためて、早逝が残念でなりません。
ちなみに、特集中もっとも胸に迫ったのは町田康の追悼文。いまこれを書いているのが出先なので手元に資料がないのですが、記憶によればこういうものです。「連れ立って飲みに行くようなことはついぞなかったけれど、それだけに本当の仲間だと思っていた」。孤独に格闘するしかない小説書き同士の心中が表れています。自分も、普段まったく交流しないけれども、心の底から仲間だと思っている何人かのことを思い浮かべました。
4. 電子書籍は自分のものにならない!?電子書籍の欠陥と紙の本の重要性について考察してみた! / 秋葉原PLUS
Kindleをはじめとする12個のサービスの約款を調べ、電子書籍のオーナーシップを検めようという企画。そして、以下のように結論します。
電子書籍ではなく有体物である紙の本を購入し手元に置くことで、末永く楽しめる。そんな世界を引き継いでいきたい。電子書籍も紙の本も値段は変わらないことが多いので、是非、本という有体物の有用性を見つめなおしてほしい。
これに対して、私の考えていることはもうちょっと複雑です。本のオーナーシップが「ある」か「ない」かの二項対立ではなく、その中間領域に「スペクトラム状の所有感」が広がっている、と思っています。たとえば、Kindleで買った電子書籍は売ることも貸すこともできないのはもちろん、私的複製さえ禁じられている点でかなり制限はありますが、経済的な規模を考えるその継続性は有望だと判断できます。それは私にとって、「やや所有している」と感じられるものです。
二項対立で考えると「やっぱり紙で」という結論に導かれてしまいますが、スペクトラム状の所有感を考えれば、電子書籍にも関わらず強く所有していると感じられるものもあり得るのではないかと思い至ります。現在制作中のデジタル版の『僕らのネクロマンシー』では、NFTの特性を生かしてそのあたりのことを問いかけることに挑戦しようと思っています。
5. 今よりもちょっとウブな半年前の自分に先輩風を吹かせる / 晴耕雨読
メディアヌップのDiscordサーバーで開催した「Web3観光ツアー」の参加者から、手の込んだ感想をいただきました。
「ファーストユーザーになれて未公開の機能が使えるとか、とある貢献が可視化されるとか、とあるイベントにいたことがブロックチェーンで証明されるとか、組織上の役割(ロール)が付与されるとか、そういうユーティリティが巧く紐付いているNFTがあって、自分のウォレットに接続する別々のWeb3アプリやツールが、そのNFTを参照して見事に連携して動くさまを見て、これは実にエレガントで発展的だな〜と感動した。
機能に価値や意味を見出して手に入れたNFTにとっては、市場価格の上下は副次的なものだから、本来のブロックチェーンのきれいな使い方が生かされてる気がする。」
私がWeb3のアプリケーションをさわって興奮したポイントそのもの、といった感想でうれしくなりました。
しかし、こういう特徴をもっているがゆえに、単一のアプリケーションを紹介しただけでは全体像が見えづらいんですよね。ゆえに「Web3観光ツアー」でガイドを試みた次第です。自分自身も楽しいで、再び開催してみようと思います。
6. “本文化”保存の新しい試み…神田神保町にオープンした共同書店「パサージュ」を訪ねてみた
私も一口オーナーになっている神保町のPASSAGE。オーナーの由井さんへのインタビューのなかで、少しだけシステムについての言及がありました。
共同書店といった形式の本屋は全国にいくつかあるが、パサージュはこれから一部の時間を無人店舗にしていく計画がある。由井さんが店番に立たない時間帯に、お客がセルフで本を選んでいくわけだ。セキュリティーの心配はあるが、一度本を購入するとメンバーになれ、スマートフォンで出入りが自由になるという寸法だ。
PASSAGEは、まずその店舗の特性が注目されると思うのですが、一口オーナーの私が注目しているのは、普段から目にしているソフトウェアのほうです。オーナーだけがアクセスできる管理画面、これが実によくできています。商品を登録する、搬入する、棚に並べる、売り上げの報告を受ける。こうしたひとつひとつの作業が楽にできて、しかも、それを作業に感じさせずにモチベーションアップにつなげてくれます。先日、由井さんにお会いしたときに「このシステムを使わせてくれ、という人も出てくるのでは?」なんて話も聞いてみました。これだけよくできているシステムなら、あり得るかもしれないと考えたからです。しかし、使いやすく汎用的なシステムを作るだけではなく、書店を中心としたコミュニティを育てていくことの重要性を説かれました。そういうことなしにシステムだけが広がってもうまくいかないのではないか、と。店舗でもありソフトウェアでもありコミュニティでもあるPASSAGE。ご注目ください。
7.「HyperLoot Card」の概要解説|CC0 NFTの発展可能性とボトムアップNFTのブランド創出について”庭師の仕事”をもとに考察 / イーサリアムnavi
よく書かれている記事なので、要約したり解説したりする気が起こらないのですが、たとえるなら、D&Dのルールブックを買った後に「あとは仲間とロールプレイを楽しんでください」と言われたときのような気分になるプロジェクトです。インハウスで作り込む部分と、コントロールを手放す部分が、懐かしく新しい。TRPGに魅了され、いまなおそれから霊感を受けている人間として、ものすごくワクワクするアイデアです。なにかしら、やれることを探してみたいと思います。
8. Blue chip NFTコレクターの情報収集術を大公開 / 聴くだけアメリカ仮想通貨ライフ
超高額NFTへの投資に熱狂する人のリアルな声を日本語で楽しめるコンテンツとして優秀。29manさんはNFTを純粋な投資として考えられているので、並列に語られるのが住宅の購入であったり、いつやめるかという出口のタイミングの話であったりします。それが、自分が夢中になっているNFTと全然違っていて興味深かったです。
私や、5番のニュースで紹介した森内さんは、サービスの生態系としてのWeb3のおもしろさに夢中になっている少数派です。しかしそれは、投資に熱狂する人を冷めた目で見ているという意味ではありません。森内さんの記事にあるように「どんなWeb3のプロジェクトでも、いつかは換金できうるトークンの所有を介する以上、投機的な動機やカラクリとは地続き」です。それもこれも含めたうえで、これまでになかった情報空間ができるかもしれないという可能性に興奮しているわけなので、NFTというシーンを成立させている投資という重要な要素については、自身にあまり関心がなかったとしても、というかなさゆえにというか、積極的に耳を傾けていきたいと思います。
9. 鈴木Pが語る庵野秀明とウルトラマン、そして宮崎駿との幻の共演
いやー、おもしろい。特にこのあたり。
「風立ちぬ」の後も、しばらく連絡しなかったら、庵野からメールが来たんですよ。文面はたった1行「お見限りですか」(笑)。そうやって、こちらが返事をせざるを得ない状況に追い込んでいく。やっぱり上手だし、おもしろい男ですよ。
このあたりのアニメクリエイターサーガを追っている者としては、歴史に残る一言です。ちなみに、これに関連して思い出したのが昨年の鈴木さんと富野さんの対談。
富野「僕はあなたにすてられた。そしてあなたは宮崎駿と二人でジブリを作り成功の道を歩んだ。残された僕は一人きりでがんばるしかなかった」
鈴木敏夫「富野さんにはガンダムがあったけど宮さんには何もなかったから」
見限るとか、すてられるとか、なんでしょうこの愛らしいやりとり。たまりません。
あとがき
小説『僕らのネクロマンシー』のデジタル版を、NFTをからめて出版するプロジェクトが進行中で、あわただしくあれこれ準備しています。しかもそれを、プロジェクトをおもしろがってくれる何人かの仲間を進められています。学びが多くて実に楽しい。少しでも良いものをお届けできたらと思います。