前回に引き続き一週お休みをいただいて二週間ぶりの配信。理由は、昨日ドロップした「A Wizard of Tono」の制作と販売で多忙を極めたためです。起業して新規サービスでもローンチしたのかな、というくらいやることがありました。どこかで話すか書くかしたいと思います。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年6月1日〜2022年6月14日
1. 月刊DAOレポート6月:DAO2DAOの動き / HashHub
純粋性の高いDAO同士がアプリケーションのように連携していくDAO2DAOのトレンドについてのレポート。理屈にキャッチアップするのが難しくても、たとえば (DAO, DAO)などのようなサービスにサインアップしてみるだけでも雰囲気がわかります。しかし自分がこれに興味が持てるかと言うと、ちょっとまだわからない。
人間の集団を計算可能なプログラムにするものとしてのDAO
オンラインで管理できる資産を共同でワイワイするためのDAO
見知らぬ人々が一緒に安全に働く手法および組織としてのDAO
上記のような幅のあるDAOの定義があったとき、私が実践してみたいと思っているのは3です。Web3のムーブメントのなかでいきなり出てきたものではなく、OSSの文化やSaaSの実践のなかから長い時間をかけて育まれてきた手法が更新されるものであったらいいなと思っています。
2. Web3の片鱗(0)|Web3が描くクリエイターエコノミーの産物【仮説編】
ちょっと衒学的な書き方なので追いかけるのが難しいのですが、このシリーズの2本目「DAOは不純物X%含有の新たなコミュニティ形態なのか」の最後、余談を宣言するところの前後が面白かったので引いてみたいと思います。
いずれにせよWeb3共同体は「FT」「NFT」「SSI/DID」という名の人工的な防御壁を駆使してその性格を変え、強み、弱みの調整を行うわけですから、DAOとは、Web3共同体とは、××であると定義できるようなものではなく、純度X%のアソシエーションや不純度X%のコミュニティのように程度として表されるものだと言えます。
余談ですが、
であるならばミーム駆動のNFTコミュニティ(DAO化されていない)が現代の刹那的な消費傾向のなかで、コミュニティであり続けるために本当に必要としている意思決定システムは「議論の場」でも「リーダーシップ」でもなく、「亀甲占い」や「サイコロ」のようなランダム化装置なのではないでしょうか。逆説的ではあるかもしれませんが、真のアソシエーションに近しい共同体もまたそれを必要としているようにも感じます。
亀甲占いやサイコロの話が出てきました。DAOという組織運営の話を聞いて宮本常一の『忘れられらた日本人』の「村の寄りあい」を思い出した人がいたように(身近なところで本当にいました)、最新の技術が人間が古くから行ってきたコミュニケーション手法や意思決定手法を呼び覚ますことがあります。このあたり、民俗学に興味を持っている私(そしてメディアヌップ)として大好物なテーマです。今後もこの手の論を持つ人が現れたら、記録したいと思います。
3. STEPN’s Action Plan for Game Economy
"コミュニティが自分たちの大切なものを発見することより大きな力はない"
STEPNでは、いただいたご意見・ご感想に深く感謝しています。心から感謝いたします。
皆様からいただいたご意見・ご感想には、さまざまな知恵や気づき、そしてサポートや温かいお言葉がありました。この数日間で、私たちが解き明かしたことをお伝えしたいと思います。
という言葉からはじまるSTEPNの運営からのメッセージ。思えば、このようなユーザーコミュニティへの呼びかけは、Web2.0の初期にはあたりまえのことでした。私はそれに魅了されたひとりで、だからこそずっとUGCを仕事にしています。それが再びあたりまえのことになろうとしているのが、懐かしくうれしいです。
4."ニュースレター再注目”は何を意味しているのか?「出版業界ニュースまとめ」古幡瑞穂×藤村厚夫対談
古幡 ニュースレターは欧米での熱狂の流れがあるけど、実は一周回ってわからないんですよね。メルマガとどういう点が違うんでしょうか?
(中略)
藤村 僕の想像だと、Webでの体験が劣化しているんだと思うんです。Webのビジネス、Webメディアのビジネスの法則が、今の忙しい人たちの気分と少しずつズレて、それを回避したい気持ちが生まれているのではないか。メルマガなんて原始的なものじゃないかと我々は感じるけれど、やはりその原始的な部分がノイジーなWeb全盛期の中で魅力的に感じられるのではないか。自分で選択できて、しかも分量も限定されている、無尽蔵ではない情報がうれしいというか。
「Webでの体験が劣化している」から、という理由は実に正確に今の気分を表現してくれています。気がついてみれば、ニュースレターにもポッドキャストにもDiscordにもWeb3のプロダクトやサービスにも一切の広告がないわけで、そのカームさに私はすっかりやられています。と、書いたあとに気づきました。Etherscanには広告が出てますね。一切というのは嘘で「ほとんど」です。
5. Jack DorseyのTBD(ビットコインのDEXを作る会社)が「Web5」を提唱Web5
「なんじゃそら」と思った人が多いのかもしれません。特に、もともとWeb3にネガティブな感情を持っていた人にとっては、「ほうらやっぱりWeb3だなんて言葉遊びだ」とコケにするいい機会にもなったようです。
私はどうかというと、意外と気に入りました。まず「Web3とWeb3.0はまったく別物である」ということを言外に示しているところ。数字なんていわば「ザンボット3」とか「ゴーグルファイブ」みたいな語感だけのものであることをおちょくっているようなもので、そういう諧謔はいいんじゃないかと。
一方、ビットコインマキシマリストらによる理想化されたWeb3 [1.0](ややこしい)にはリアリティを感じられておらず、スマートコントラクトとコミュニティによる現実のWeb3 [2.0](ああややこしい)のことをそんなに敵視・無視しなくたっていいんじゃないのという思いが生じる。どうなんだろう。もっと勉強しないとわかりません。勉強してきます。
6. お店の写真を投稿して稼ぐSuperlocalインタビュー / 石ころのニュースレター
Superlocalをとりあげるのは「週刊メディアヌップ#12」に続いて2回目。創業者のリアルな声が読めて実におもしろい。好ましいのは、Web3をやるためにWeb3をやっているわけじゃないところ。まず目的があって、その手段としていま自然にWeb3的なやり方をとりいれようとしているのがわかる。「何億人が使うレベルのNext Giant Social Networkを目指している」というようなビジョンも、普通なら「Web3っぽくない」と言われることを嫌って言わなそうなものなんだけど、そういうことも意に介さない。ごく普通の手段としてNFTやトーケノミクスを検討し、それが自分たちにとってよいものであれば取り入れようとする。Web3的なナラティブに流されない。そういう自然さを好ましく思い、さらに応援したくなりました。
7. Escape from Hell World
実に長くて、集中してないと話が追えなくなってくるのですが、最後のあたりに出てくる一節に目が引き寄せられました。そこを紹介します。
If writers are given power – true ownership, a direct connection with their readers, and a simple way to make money from the people who value their work – amazing things can happen.
もし作家に力が与えられれば、つまり真の所有権、読者との直接的なつながり、そして自分の作品を評価してくれる人たちからお金を稼ぐ簡単な方法が与えられれば、驚くべきことが起こります。
ニュースレターを発行し、ポッドキャストを配信し、NFTをドロップする。私がメディアヌップを楽しんで継続できているのは、そこに「ture ownership」と「direct connection with their readers/listners/owners」があるからです。これを説明するのになにもWeb3を持ち出す必要はありません。noteには何も書く気がしないのに、自分のサーバーにWordPressをインストールすると文章が書きたくてしかたがなくなることってありますよね?(私はあります)。それはどこまでも私のものであり、私のつながりだからです。そこから驚くべき力が湧いてくる。面倒くさいことは増えるけど、それによって手に入る自由が力を与えてくれる。真理です。Substackの運営も大変なのだと思いますが、その真理に根ざしてサービスしている限り、まず大丈夫だろうと思います。
8. 優れたプロダクトリーダーは、いかに"壊れた"プロダクトを治すのか?
元の文章が短くて読みやすいので、あえて分割ツイートを紹介しなくてもいい気もしたのですが、こちらにはこちらの味があったのでそちらをご紹介。
もとの文章で気に入ったのはこの部分。
Embracing this simple fact – that something important will always be broken – is a skill that every good founder develops and none is born with.
「重要なものは常に壊れている」この単純な事実を受け入れることは、優れた創業者なら誰もが身につけるスキルであり、生まれながらにして身につけることはできません。
重要なものは常に壊れているという言葉に、なんだか励まされるものを感じました。逆に言えば、「壊れていないものは別に大事なものでもない」ということになります。そう捉えればこそ、最後の言葉「Let go of perfect. Let things be broken.(完璧を捨てろ。壊しちゃえ)」があたらしい挑戦を促す言葉として響いてくるように思います。
9. 遠野のお盆
まだ6月なのに、早くもお盆を待っている富川さんの投稿。それに私も釣られました。
昨日ローンチした「A Wizard of Tono」、その特典である小説『僕らのネクロマンシー』は、冬の終わりからお盆に向けてお話が展開する物語です。そのラストシーン付近の遠野の風景がまさにこれ。あの世とこの世をつなげる降霊術師の話です。NFT版のローンチにあたっては、テクノロジーや技術の話ばかりしてしまいましたが、本当はただ単にこの物語を伝えたいだけだったりします。そういう本音は、ニュースレターの最後あたりにとっておきました。
あとがき
毎月やっているWeb3勉強会ですが、今月は「Web3登山隊」と題し、空気の薄い(情報の少ない)5,000メートル付近のベースキャンプからお届けしました。画面を共有しながら実況するだけなので事前準備もあまり要らず、負担が少なくて楽しいんですよね。需要があるのかどうかだけがわかりませんが、本人が楽しいんだから続けると思います。来月以降の告知はDiscordで。