NFTコレクション「A Wizard of Tono」を出したり、ポッドキャストを更新したり、TRPGのシナリオを書いたり、またあたらしいNFTのプロジェクトの打ち合わせをしたり、一週間が瞬く間に過ぎ去っていきました。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年6月15日〜2022年6月21日
1. Web会議での疲労感は“音質の悪さ”が原因。NTTデータ経営研究所とShureが検証
良いマイクは健康に良い、良いマイクは地球を救うとお伝えしてきたメディアヌップの主張を裏付ける実証実験。日々そのことを確信する私は、つい昨日もマイクを2本追加購入することに決め、よく一緒に会議するメンバーに配ることにしました。情けは人の為ならずというか、マイクは人の為ならず、みたいな感じです。
2. ロイターのDigital News Report 2022
毎年精読しているのですが、今年は特にポッドキャストとニュースレターのところを気にして読みました。おもしろかったのは以下。
スポンサーシップや広告の枠を超えた新しいビジネスモデルも生まれ始めている。有料メルマガはまだ米国に限られているが、この永続的なメディアの特徴である利便性とユニークなコンテンツを組み合わせることができる企業にとっては、チャンスは拡大すると思われる。(p49)
有料メルマガつまりニュースレターのことを「Enduring Medium」と呼んでいるのが興味深い。この古くてしぶとく、しかし魅力的な媒体を示すのにいい言葉であるように思います。
なお、Web3やNFTについては一言も出てきませんでした。
3. TONUP TRPGの世界・舞台・思想・通貨・物語
自分で書いたものをニュースに取り上げるやつもないもんだと思いますが、それはこういう試みなんです。
TRPGのコンテンツの核となるのは「世界」と「ルール」。これらは安価で複製可能であり、複製可能であるからこそ広まり、広まるからこそ価値が高まるという性質を持っている。それゆえ、その外部にビジネスモデルを構築しなければ継続できない。
代表的なビジネスモデルは、リプレイの出版、小説やアニメやゲームや映画といったメディアミックス展開、海外であればフィギュアの販売など。
さらに、TPRGを二次創作と捉えて(私にはそうは思えないんですが)、BoothやDLsiteなどで販売されるシナリオ等に対して開発元が許諾を与える代わり一定のビジネスルールを定めるなどの動きも出てきた。
でも、一度原点に戻って、コンテンツの核である「世界」と「ルール」そのものでビジネスモデルをつくれないだろうか?
というわけで、いま試みてるのが「自分でTRPGの世界とルールを作ってみる」「そこにオリジナルの武器や魔法といったアイテムを登場させる」「それを、参加者に本当に“所有”してもらう」「所有しているキャラや武器や魔法は、当然ながら他でも使える」というようなことなんですね。だんだんとWeb3っぽい話になってきました。それが紹介したかった理由です。お見せできるクオリティになるまで、まだまだ続けたいと思います。
4. Book NFT: A Proposal to Unify the Entity and Utility of Digital Books
続けて自分で書いたものを取り上げてしまうわけですが、MirrorのWriting NFTに初めて挑戦してみました。
コレクションされ得る文章を書くというのがどういう気持ちかというと、なんと、あたりまえのことを言うようですが、本をパブリッシュするのと同じような気持ちになります。ブログもニュースレターもパブリッシュするつもりで書いていますが、Mirrorはそれがもっと強い。訳者のSumiさんと一緒に意味と文章を何度も何度も確認してパブリッシュしたそのプロセスは、プリントメディアをつくるときの感覚です。この感覚の向こうに、なにかおもしろいアイデアが待っていそうで、それでニュースとしてとりあげてみました。
5. ネット集合知の理想はいつ崩壊したのか? / 佐々木俊尚の未来地図レポート
梅田望夫さんの「残念」発言に対する振り返り。当時、私はこの残念という言葉をおもしろく感じて、気に入り、それを題に冠する小説を一本書いてしまったほどでした。明らかに悪い意味で使われているこの「残念」という言葉を、物語を通じてポジティブに反転させられないか、そんなことを考えたんです。
だからそのときの気持ちはよく覚えているのですが、梅田さんの発言はいま読み返すとあまりにナイーブだなと。Twitter/Facebookの隆盛と凋落はこのあとのことですから、それにはとても耐えられなかったんじゃないだろうか、という気がします。そう思うと、自分がそのとき何に対して腹を立てていたのかもう思い出せなくなってしまいました。
6. 世界的サイバー法学者が語る「web3の前に考えたいWeb2.0の問題点」
40歳を超えた人間の役割として、保守的な考え方の重要性をちゃんと発信していきたいと常々思っています。
米国で今、最も恐ろしいのが「政府など不要だ」と考える人たちが増えていることです。シリコンバレーの関係者に見られますが、「自分の面倒は自分で見るからいい」という人たちがいます。彼らのスタンスは、政府は不要で、気候変動や経済格差もインセンティブが働く企業が解決する、というものです。これなど、絶望的なくらいにナイーブですよ。社会が形成されてきた歴史についてあまりにも無知です。(中略)
いずれにせよ、重要なのは、現代において政府が機能不全な社会で暮らすことは不可能であると、私たちが理解することです。とりわけ、中国のような戦略的な競争国が効率的な政府を作っているとあれば尚のことです。
7. Community building platforms for publishers: Facebook Groups vs. Twitter Communities vs. Discord
パプリッシャーがコミュニティを作るにはどのサービスがいいかという話で、どれにも等しくProsとConsが挙げられているように見えますが、中身を読むとDiscordが優勢に思えます。FacebookやTwitterに比べて、圧倒的といってもいいくらい差があるように思います。
Discordは主にゲーマーがプレイ中にコミュニケーションをとるために開発されたものですが、ますますあらゆる種類のコミュニティ形成のための場所として定着しつつあります。
最近、PitchforkはDiscordとアーティストとファンがどのようにつながっているかを紹介しました。多くのサブスタック作家は、有料会員専用のDiscordサーバーを立ち上げており、これはYouTuberにも愛用されています。
去年の9月の記事ですが、いま読みました。そしたら、いまの自分を励ましてくれるような言葉いっぱいのっていたのでうれしくなってとりあげます。
Don’t be a purist. Most consumers don’t care whether your product is on the internet, web3, or offline. Those are tools, not value propositions.
純粋主義者になるな。ほとんどの消費者は、あなたの製品がインターネット上にあるか、web3上にあるか、オフラインであるかを気にしていません。それらはツールであって、価値提案ではない。
肝に銘じたいと思います。
9. Web3 and the Trap of ‘For Good’
Web3を称揚してばかりでskepticalでcriticalな視点ひとつ持たない記事や本を読んだ後には、ぜひこうした文章を読みたいものです。この議論があたりまえになってはじめて、Web3肯定派も否定派も、二項対立に陥らない中間の豊かな実践によって本当に物事が語り合えるようになると思います。
いくつか引いてみます。
X for Good "のフレームワークは、貧困削減や社会的正義の運動など、社会的インパクトを生み出す適切なツールをコミュニティ主導で開発することを可能にします。しかし、あまりにも多くの場合、技術的解決主義に陥り、コミュニティと共に、あるいはコミュニティによって設計されたものでもないツールをコミュニティに押し付ける結果となっています。
技術的解決主義の陥穽に落ちるな、という話。
ソーシャルメディアやWeb2.0以前の「つながり」ツールのように、Web3はテクノドミナントが持つ腐敗した、あるいは悪意のある政治的利益からコントロールを奪う手段として表象されています。しかし、Web3には本質的に魔法のようなものはなく、単に「for good」のフレームを適用してリスクのある経済に向けることは、メディア活動家のOlivier Jutelが「ブロックチェーン帝国主義」と呼ぶものに等しい。現実世界、オリジナルのインターネット、Web2.0を悩ませている問題はWeb3にも存在し、これらの問題は暗号通貨取引の速度で移動し、有害な力の非対称性を生み出しながら(そして記録しながら)移動することができます。
これはよく言われることがですが、問題の再生産についての話。
私たちは、搾取や不平等が習慣化され硬化してしまうかもしれないWeb3の発展段階にいる一方で、共有された繁栄と正義のためにそれを有用に形成するチャンスがまだあると信じています。そのための最良の方法は、ゆっくりと時間をかけて検討し、意図的かつ積極的に保護、プライバシー、および公平性のシステムを足場の一部として構築することです。
スローにやろう、という話。結論を焦らせるものはだいたい詐欺師であることも同時に思い出したい。
コミュニティの信頼を築くには、分散化以上のものが必要です。分散型テクノロジーの上に構築する人々は、しばしばそれを信頼不足の解決策として主張し、「信頼」はシステムに固有のものであるとします。しかし、そうではありません。信頼関係の構築には、特に、深い傾聴と誠実な関わりが必要です。
それに分散化以上のものが必要、というあたりで重要な指摘。
Web 2.0では、「社会的に良いことをする」ことは、「何でもする」ための隠れ蓑として使われた。最も儲かること、最も速い成長を遂げること、大きすぎて規制できないこと、などなど。現時点では、Web3は同じ道をたどる危険性があります。
最近は、隠しもしない風潮もまたあると思います。
Web3固有のエネルギー消費問題を無視したり、横取りしようとしたりしてはいけない。Web3がもたらす下流への影響は、現在も将来も、弱い立場の人々に最も大きな打撃を与えます。この重要な問題が根本的かつ具体的に解決されない限り、Web3は環境破壊を未来に輸出し続け、私たちだけでなく、次の世代をも取り返しのつかない気候の破局に劇的に近づけることになるでしょう。
これもあらためて肝に銘じようと思いました。
テクノロジーとその愛好家が約束した透明性を要求する。監査、監査、監査。検証、検証、検証。
気に入りました。
学び、探求し、質問し続けること。分散型台帳技術やブロックチェーン分野の非常に基本的な仕組みを無視することは、もはや許されない段階に来ています。Web2.0の主要な事業者がその利点を利用する波を食い止めるチャンスがあるのなら、これらは教え、学ばなければなりません。
締めの言葉として気に入っています。学び、探求し、質問し続けることの大事さ。暗号資産の価値のアップダウンに一喜一憂している状態というのは、いわば「真似し、盲信し、悪態をつき続けること」で、そうであってはいけないよなと。
あとがき
ハッシュタグで感想を書いてくれた方にプリント版『僕らのネクロマンシー』をプレゼントという企画をやっています。私の手元にあと5冊ほどプリント版が残っているので、それをお贈りしたいと思います。ぜひ感想をお聞かせください。
>結論を焦らせるものはだいたい詐欺師
true.