ささきる(@sasakill)が気になったニュースにコメントを添えて、1週間分まとめてお送りします。気まぐれではじめたのが水曜日だったため、週の半ばが切れ目です。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年2月2日〜2022年2月8日
1. Web3’s Summer of Love
Web3の文化についての指摘。「ムーブメントには文化的な追い風が必要で、60年代のそれはボブ・ディランやジミ・ヘンドリックスやウッドストックだった。現在では、ゲーム文化が追い風になり、NFTやTwitterや実況コンテンツの文化を定義してる」というような話。実況コンテンツというのはおそらくTwitchやDiscordのことだと思いますが、まさにその通りですよね。
2019年に「Gamingは、たとえば野球がそうであるように、社会的文化的に広く浸透しメディアやビジネスやコミュニケーションの間に充満している状態になっていく」(参照)と書いたのですが、その通りになってきているなと感じました、。メディアヌップのポッドキャストのシーズン1をTRPGの話題からはじめたのはたまたまだったのですが、気づけばこれもゲームの話でした。
2. 2021年はデジタル出版50周年だった - HON.jp News Blog
アメリカの電子図書館「Project Gutenberg」の誕生から数えて、昨年が50周年の節目だったとのこと。直感を裏切る印象的な長さです。
ニュースとして紹介する頃合いはすっかり逃してしまったものの、UGCに特段のこだわりを持つメディアヌップとしては「いまや誰もがデジタル出版している」という鷹野さんの言葉を含めて紹介したく思い、取り上げました。
3. 羽生善治九段が29期連続在籍A級からの陥落決定、永瀬拓矢王座に敗れB級1組へ
藤井さんとの世代交代を印象づけるニュースとして大きな話題になりましたが、その反応のなかに、ちょっとした反発を覚えるものがありました。B級1組に降格するという結果をだしに使って、中年の限界について自分語りをするような投稿です。
ここで「老い」を持ち出す前に私が思い出したのは、羽生さんのこんな言葉です。
一番手堅くやり続けるというのは、長い目で見たら、一番駄目なやり方だと思うんです。勝率の高いやり方にこだわるというのは、未来を見ているのではなく、過去を見ているということですから」(NHK 百年インタビュー, 2008)
この考え方に従うならば、原因を求めるべきは現在の「老い」ではなく「過去の選択」であるはずで、電王戦に出場して衆目の前でコンピュータと対戦しなかったことなどが私には思い当たります。事実、いまA級で活躍している若手のなかには、過去にコンピュターとの対戦で悔しい思いをした棋士たちが何人も含まれています。
もちろん他者を推し量ることはできませんから、あくまで想像です。でも、自分が同様の立場になったときには、老いのせいにする前に、勝率にこだわるあまり挑戦を避けてしまわなかったか、ということを振り返りたいと思います。
4. 人間とは? 地球とは? 生命とは? 技術とは?:ウェルビーイング、レジリエンスを未来に実装するための10冊 - WIRED
小説『僕らのネクロマンシー』に、テクノロジーがほぼ完全に自然に埋め込まれてそれと気づかない状態のことを「カームネット」と呼んだのですが、そういう世界を描いた者として見逃せない表現があったのでメモがてら取り上げたいと思います。「アテンションエコノミーがわたしたちの時間の争奪戦を繰り広げ、メタヴァースがわたしたちを四六時中接続させる時代に、 “穏やかな技術”の価値を再考したい」まさに。
5. クリエイターエコノミーの影、言論の自由はどこまで認められる - Media Innovation Weekly
継続的関心ポイントなので、この手の話は折に触れて取り上げたいと思います。アメリカの通信品位法230条、あるいは日本プロバイター責法制限法的な世界に見直しの機運が高まるのは、プラットフォームの力がCentralizeされるにしたがって覇権が強まるのなら、責任もまたCentralizeされるべきという話なのですが、それがSubstackのようなDecentralizeなサービスにもそれがあたるのか? どのように? という話です。
あとで振り返るための個人的な所感を書いておくと、やはり時代の流れとして多かれ少なかれSubstackであってもその責任は求められるだろうと思います。
6. 芥川賞作家の西村賢太さん死去、54歳(共同通信)
明かしてしまえば、私の小説上の師匠のひとりでした。そしてなにより、新作の刊行祝いに鶯谷の「信濃路」にひとり聖地巡礼をするようなただのファンでした(参照)。
貴重なものを、あえてぞんざいに扱う。若い時代の青春を棒に振ったり、愛してくれる人につらくあたったり、年経てからかの健康を無視したり。そういう罰当たりな人間が、虚仮の一念で作り上げた作品と人生の驚くべき合一に、私は本当に魅了されていました。ほとんど誰にも通じないような例えかと思うのですが、西村賢太さんはプリンスでいうと自伝的映画『パープル・レイン』だけをひたすら撮り続けたような人で、その自意識のみっともなさと切実さ、そして作品の完成度と意外なスウィートさのギャップが堪らなく好きでした。合掌。残念でなりません。
このあと、未刊行の作品がたくさん出版されると思いますので、すべて読んだ後に何らかの追悼特集を企画したいと思います。
7. グレン・グールド なぜコンサートを開かないか(著・ジェフリー・ペイザント 著, 音楽之友社, 1989)
クラシック音楽という、もっとも厳格な規範があるような芸術形態において、「他者やオリジナルと比較してもしょうがないよ」というグールドのメッセージは特異です。しかし「ただそこに生じるエクスタシーや個人的特質に気づくこと」の重要性について説かれると、それが音楽の演奏に限らない話に思えてきて、いまや誰もがなんらかのかたちでクリエイターである時代を励ます言葉に聞こえてきます。(いまはTRPGで頭がいっぱいなのでまずは)ゲームのなかで何かをロールプレイングすることもそうだし、文章や音楽をつくるときもそう。エクスタシーと個人的資質に気づく、という表現が気に入りました。
8. 「宇宙戦艦ヤマト」をつくった男 西崎義展の狂気(牧村康正, 山田哲久, 2017)
頭をちょっと読んだだけで、おもしろくて止まらなくなりました。手塚治虫をキレさせながら、富野由悠季の才能を世に解き放つ。アニメの黎明期の話にはむちゃくちゃなエピソードが多くて大好物なんですが(『熱風』で連載されていた海外での永井豪作品の版権の話などを思い出します)、西崎義展は破格です。私が2003年に編集者の仕事をし始めたときに服役の報を聞いて、そのタイミングで人づてにその伝説的な悪評を耳にしたことがあったのですが、その正体をまとめて読むとスケールのでかさに圧倒されます。まさに「負の悪徳」。
9. 人口800人の限界集落が「NFT」を発行したその後 - 山古志住民会議
Web3 × ローカルという自分の関心が重なり合うストライクゾーンで、注目しています。一見、英語や新語がばんばん出てくるとっつきにくい分野ではあるのですが、数々のNFTプロジェクトで経験のある高瀬さん(@toshiaki_takase)をはじめとした運営が非常に丁寧なオンボーディングをしてくれるので、「NFTなにそれ、Discordわからない」という人でも入りやすいと思います。自分も多くを勉強させてもらっています。
あとがき
一週間分の感想をまとめて振り返ると、自分がいま関心を持っていることや、その文脈と展開がクリアになってとても楽しい。もっと早くニュースレターをやっていればよかったです。
坂本龍一氏をきっかけにグレン・グールドを知りましたが、『なぜコンサートを開かないか』・・・!
そんなグールドへのオマージュとして催されたコンサートに伺ったことがあります。
https://www.gggathering.com/release/