こんばんは。前回の配信が10月18日だったので、およそ一ヶ月ぶりになります。その間、「Game of the Lotus 遠野幻蓮譚」というあたらしいサービスのローンチがあったり、世の中を騒がせる大きな事件があったりしてニュースレターにとりかかれずにいたのですが、あまり間を空けるとニュースが選べなくなると思い、重くなってしまった腰をあげて書いてみます。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年10月19日〜2022年11月13日
1/ FTXの破綻
FTXというのは暗号通貨の大手取引所で、そこが破綻したことが大きな(とても大きな)ニュースになっています。まだ影響範囲の全容がわかっていないのですが、現時点でも、これが世界最大の金融犯罪であろうこと、それがクリプトにおける過去最大規模の信用不安を業界内外に引き起こしていることは間違いなさそうです。
私には直接の被害といえるようなものはいまのところないのですが、間接的にはいろいろと「困ったなあ」と思うことがあります。代表的なのは、Web3に反感を覚えている人たちの「これだからWeb3は……」とでもいうような発言が木霊することで、そのようなノイズが満ちていると本来聴くべき音が聴こえなくなってしまいます。それが困る。
何がノイズで、何が本来聴くべき音かについては、このあともニュースレターで取り上げていきたいと思います。上記のツイートはたったいま目についた一例です。
2/ イーロン・マスクによるTwitter買収
週刊メディアヌップでは、過去この話題を無視してきました。それは、イーロン・マスクがUGCのサービスの運営を舐めていることが明らかであり、この騒ぎに乗じて何かを語ることは(たとえばTwitterの改善案をしたり顔を語ってしまうことなどは)、イーロン・マスクの無理解と無敬意を後押ししてしまうことになってしまうと思ってのことです。
ただ、実際に事態が進んでしまったあとには、ちゃんと違和感の表明をしていきたいと思います。現状では、星さんの以下ふたつのスレッドをおすすめしたいと思います。
3/ NFTの二次流通のロイヤリティの今後について
NFTの特徴として語られることの多い二次流通のロイヤリティ(転売が繰り返されても創作者にお金が入り続ける仕組み)が避けられるようになっている、そしてマーケットプレイスもそれを後押ししているかのように見える、というような話が話題になりました。それについてこんな風に思っています。
二次流通のロイヤリティには法律的な根拠がないことが多く、あくまで文化の話。また、現状ではスマートコントラクトによって実現されている機能ではなく、マーケットプレイスによって実現されている機能にすぎない(スマートコントラクトそのもので本機能を実現する提案は当然あります)
実際に、今年6月に私がローンチした「A Wizard of Tono」の場合は、転売時にお金をいただく根拠がないのでロイヤリティ0%にしています
一方、10月にリリースした「Game of the Lotus」では、ガス代肩代わりの仕組みが動き続けることと、無料のアイテムパックを更新し続けるサービスがあることから、10%を設定しています
さらに「Game of the Lotus」の場合、ユーザーやマーケットプレイスが二次流通のロイヤリティを支払わないことを選択しはじめることになれば、ガス代肩代わりをやめたり、無料のアイテムパックの更新を妥当なペースにするといったサービス側の調整弁が存在しています。そのような準備があってはじめてロイヤリティを求めることができると考えています
根拠や準備があってはじめて販売者/購入者にロイヤリティを求めることができるという考えなので、ロイヤリティの任意化とそれにともなう金額の低下は「もともと文化に基づく話だったし、法的根拠がなければ大勢としてそうなるだろう」というもの
そのうえで、マーケットプレイスの方針や動向についてあれこれ考えをめぐらせるよりも、自分たちがロイヤリティを設定するサービス的な根拠をしっかりもって、それに任意で納得してもらえるようなユーザーとの関係を築くことに集中すべき
このような考えは今のところ珍しいようなのですが、それに近しい内容として以下の記事を引きます。
曖昧なクリエーター報酬を支える強力な根拠はあるが、このシステムを取引所が尊重することにアーティストが頼ることは、持続可能な形ではない。業界としては、チップの支払いが当たり前に見込まれるような文化を育むべきだ。同時に、コードに組み込まれるまでは、ルールが強制されることを期待することもできない。それが暗号資産の在り方なのだ。
4/ 米銃乱射「4チャン」影響 NY州報告書、法改正を要請
メディアヌップで紹介し続けているQアノンやひろゆきの話について。10月の記事でいささか旧聞に属することですが、過去4週間分から選ぶとやはりこれも入ります。
5/ 録音された会話の可能性
先日配信したポッドキャスト「#059 見知らぬ人々がオンラインで安全に働く方法としてのDAO」は、YouTube Liveで行ったパネルディスカッションを編集した番組です。ご好評をいただきました。そんなことがあったもんだから、宮武さんの以下の発言が目に留まりました。
ただ、本好きとして書き添えておきたいのは、1〜2時間の良い会話と同等レベルの情報量・質の本は、本としては別に良いものじゃないということ。
要点だけ書けば2000〜3000字で終わるのに書店流通に乗せる商品にするために10万文字に水増しされる新書や、本棚での見栄えをよくするのに必要な厚みを確保するために不必要なジョークで嵩増しされたビジネス書なんかであれば、おっしゃる通り会話もまた有効な方法だと思います。
6/ 東京web3ハッカソン
FTXの破綻の裏で耳を澄ませたい取り組みたち。
7/ 世界中の伝統音楽のデータベース、慶應大が公開 1026民族、5776件の音声記録を掲載
最高。細野晴臣が70年代にこれに出会っていたら、音楽の歴史が変わったんじゃないかと、そんなことを思いました。柳田國男も狂喜乱舞したに違いありません。
記事中にリンクがないのですが、聞けるのはここです。
https://theglobaljukebox.org/
ちなみに、しょっちゅう引き合いに出して恐縮ですが、拙著『僕らのネクロマンシー』には、失われた郷土芸能を過去のデータから復元するというアイデアが出てきます。音楽や舞踊の伝播の歴史がわかれば欠損部分の推測が可能になるのではないかという話なのですが、このようなデータベースが充実していく先にはそうした空想も現実味を帯びてくるかもしれません。
発言の主がわからない箇条書きなので続けて読むと論旨がバラバラで混乱してくるのですが、そのなかにも賛同を示したい発言がいくつもあったので引いてみます。
・目指すべき社会は何かと議論をする際、何か固定のものがあってバックキャストされるというより、様々な人がイノベーションの主体になり得るという状態をいかにつくり出すかということの方が本質なのではないか。DAOというのはボトムアップで、様々な小グループのディスカッションでガバナンスされていく状態だとすると、コミュニティーの中で発生するようなガバナンスをどう作れるか、そういう社会を作り出せる人たちをどう増やすために我々でエンカレッジするのかということの方がはるかに本質的なのではないか。
・インターネットのインフラというのは呼吸のように非中央集権型と中央集権型を繰り返していて、現在また3回目の呼吸が起きており、進化をしている。一方、今の若い人たちは環境問題や、ESGを意識していたり、ボトムアップや参加型など、いろいろな社会的な動きや圧迫されている人たちの気持ちがある。Z世代の理念や、こういう世の中が欲しいという気持ちと、ブロックチェーンや非中央集権型の技術は合っている。ソーシャルムーブメントがあって、そのソーシャルムーブメントに引っかかった技術が同時に起きているということが重要。web3を使っている人たちが何をしようとしていて、彼らがどういうふうに進化していくかということも重要である。
このあたりはたぶん、伊藤穰一さんの発言かな?
9/ 発売から35年、妖怪道中記・隠しパスワード完全解明までの一部始終~531垓分の1を探し求めた男たち~
PCエンジンユーザーだったので『妖怪道中記』には親しみがありますが、そんなこと関係なくすごい。動画もよくできていて最高。
あとがき
『すずめの戸締まり』を観に行ってきました。8歳の息子でも楽しめる飲み込みやすさと、40代のオトナが懐かしさを覚えるディテールはさながら『ストレンジャー・シングス』のようで、同時代の作家による優れた作品を鑑賞できることに喜びを感じながらはじめからおわりまで余計なことを考えずに見られました。そんなことは新海誠作品では実は初めて。