遠野に出張に行ったり、ワールドカップの決勝リーグに夢中になっている間にすっかりリズムが狂ってしまいました。今週も変則的な配信です。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年12月10日〜2022年12月19日
1/ 調べて、整理して、発信するのが好き。「とほほのWWW入門」管理人が26年間も更新を止めない理由
──最後に、日本のインターネットの「先生」的な立場の杜甫々さんにお聞きしたいです。これからインターネットを日常的に使ってきた人たちが高齢者になっていきます。いわば「Web時代の高齢化社会」がやってくるわけですが、この点についてはどんなお考えを持っていますか。
杜甫々: インターネットユーザーが高齢化するということは、見方を変えれば「全年代の人がインターネットを使う時代」がやってくることを意味しています。だって、私たちは年を取ったからといってインターネットをやめないですからね。
今年一番いいインタビュー記事なのでは。元気をもらいました。Revueがサービス終了するとか、Twitterからマストドンにリンクするとアカウントが凍結されるとか、そういうニュースがどうでもよくなるような図太い指針を示してもらった気がします。自分が作ったコンテンツは、自分で持つ。そしてずっと学び続ける。
2/ あたらしいアートのかたち(施井泰平)
NFT専門メディア「Right Click Save」が12月11日に東京で開催したイベント「Right Click Live」に参加するにあたって、行き帰りの電車で『あたらしいアート』のかたちを読みました。
上記で言及したのは、具体的には以下の部分です。
「アートは単なる所有などではない」と言いながら頑張っていた仲間たちが、どんどんアーティストとして生きていく道を諦めていったという現実もあります。
アートの価値は、うまく絵を描くことではない。美術大学を出た人たちが言う偉そうなことでもない。所有がもつダイナミズムによって、時代を隔てた価値を問うアートの生態系が維持されていると考えると、すごく腑に落ちる。
この「時代を隔てた価値を問う」のが何かというと、およそ以下の部分。
アーティストが発行する「自分自身の株式」としての作品は、まだつくられていない作品をも含め、アーティストが世に問う普遍的な価値の総量を予測しなければ、正しい価値を知ることはできません。生まれたばかりのベンチャー企業の株式を買うのがむずかしいのと同様、あるいはもっとむずかしいかもしれません。けれども、アーティストから作品を買うことが、つぎの作品を生み出すための応援であるとともに、自分の所有する作品の価値を高めていく行為でもある点で、株式とアート作品はよく似ています。
この本を通じて、自分が作った「A Wizard of Tono」も「Game of the Lotus」も完全にアートなんだなということを理解しました。作っている間は、積極的にそう思うことはなかったんですが「所有がもつダイナミズムによって、時代を隔てた価値を問うアート」と言われたらすばりそれだなと。
ちなみに、本作には鶴見俊輔の限界芸術の話やベンヤミンの「複製技術時代の芸術作品」などへの言及もあり、Web3の歴史的な文脈に興味がある人は必読です。今年読んだWeb3本のなかで一番おもしろかったです。
ちなみに、著者の施井さんにはその後「NFT Tokyo Summit」でお会いして、感想を直接伝えることができました。
3/ THE NEW CREATOR ECONOMY
ずっと以前に買って積んでおいたのですが、『あたらしいアートのかたち』を読んで自分の作品がアートなのだと理解した後に読み始めました。
上のツイートに書いた通りですが、WhyでもWhatでもHowでもない「THE NEW CREATOR ECONOMY」というタイトルが実に示唆に富んでいる、そんな内容でした。
疑いようもなくすでに存在しているものをタイトルに据えることで、「実体がない」とか「クソだ」とか「宗教だ」とかいう2022年によく聞いた妄言を一蹴していて小気味良いタイトルです。一聴して凡庸なタイトルに聞こえますが、積極的に使っていきたいと思います。
4/ ChatGPTは検索に支配されたWeb2を倒し、Web3への道を開く【オピニオン】
アトランティック誌のコラムニスト、イアン・ボゴスト(Ian Bogost)氏は「生成する回答はおそらく、浅はかで深みや知見に欠けている」と述べ、「人間の言語の複雑性を真には理解していない」と指摘。多くの人たちの称賛に冷や水を浴びせた。
しかし、ボゴスト氏のボスでアトランティック誌のCEOニコラス・トンプソン(Nicholas Thompson)氏に言わせれば、そのような不完全性は、このテクノロジーがインターネットの主要な部分である「検索」という分野にもたらすディスラプト(創造的破壊)を妨げるものではない。
威勢がいい、いや、威勢が良すぎると言って良いタイトルですが、「会話」が検索をノックアウトするかもしれないというアイデアには伝統があります。
また自分の作品の話になってしまいますが、ご容赦ください。小説『僕らのネクロマンシー』の主人公は、スマートフォンを持たず、ネットワークから切断されたデバイスをあえて使う世捨て人として作品に登場しますが、その相棒となるのは会話型のインターフェースを持つ機械的知性です。これを描くつもりになったのは、私がLINE株式会社という検索サービスにルーツを持つ会社にいて、誰もが諦めているタイミングでも常にGoogleをやっつけることを考えているような集団にいたからです。
だから、会話が検索を破壊するかもしれないというアイデアにはなじみがあります。続く。
4の続きです。この記事の注目部分を、ちょっと長いですが引用します。
Googleは存亡の危機に直面し、TwitterとRedditはより価値を増す
いいえGoogleは明日には消えません。そう、彼らもこのようなものに多額の投資をしているのです。もちろん、現実的な限界はたくさんあり、展開には時間がかかるだろう。しかし、今、私たちは新しい道を見ることができます。
競合他社の波は、リンクをバイパスして、クエリ応答にもっと価値を置くように煽られるでしょう。グーグルは、計量器と質問回答者としての立場を慎重に管理してきました。このバランスは、もちろん、これまでに知られている最高のメディア収益化モデルや、オープンウェブの基幹としてのグーグルの微妙な独占的地位を維持するために必要なものです。しかし、テキスト、画像、動画、VRを組み合わせて、ユーザーの高度な要求にリアルタイムで応え、スマートにレスポンスを生成する新しいモデルが出現すれば、その地位は徐々に低下していくでしょう。リンクという考え方は、当然ながら価値を失います。
私たちは今、検索の限界を目の当たりにしています。Googleのクエリ応答がゲーム化されたリストになるのを避けるために、クエリの最後に「:Reddit」を追加して、Redditのような会話型データセットに検索エンジンを向けるのが一般的な方法である。私たちの知識の多くは、リンクをバイパスして、ナラティブなパケットに集約されたベースレベルの知識を好むようになるでしょう。
メディアヌップでポッドキャストやDiscordに親しんでいるみなさんには、リンク/被リンクという関係を特に持たない会話という情報がいかに価値を持つか簡単にイメージしてもらえと思います。
そのような方法で従来のウェブ検索的な世界の次が見られるとしたら、ワクワクします。おそらくそこは、ローカルなスラングに満ちた世界になるはずです。
6/ バブルが弾け、マスアブダクションの足音が聞こえる
そう言われてみると、聞こえるような、でもときどき不安になるような、というのが実際の心境。しかし今は、半年前と全然違って、誰もが聞いたことがあるブランドがWeb3のプロジェクトに名前を連ねることが増えました。
個人的に特に注目しているのは「Starbucks Odessey」。サービスそのものも注目ですが、よく知られたブランドなので、それに対していろんな人が行うコメントも注目。たとえばこういうものです。
NFTを手に入れるために、スタバの店員とジャンケンする景色が見られるようになったら、これはもう確実に足音が聞こえていると言っていいと思います。
7/ Web3が生まれるに至る背景
経済産業省から「Web3.0事業環境整備の考え方」が発表されていました(ちなみに同日、自民党デジタル社会推進本部から「web3政策に関する中間提言」も発表されていました)。
私は基本的にこれらの運動を応援しているので、趣旨が違っていない限りは細かいところは読み飛ばして気にしないようにしているのですが、歴史認識に関することは当事者でもあり、専門家の端くれだと思っているところがあるので見逃せませんでした。
個人の創造力をエンパワーするパーソナルコンピューターの思想と実装が70年代から進んでいくなか、90年代からゼロ年代を通じて、ウェブには情報流通の民主化が期待されました。しかし、個人が用いることのできるビジネスモデルには限りがあり、最終的には、無料広告モデルとスマートフォンOSとAI型レコメンデーションの組み合わせによって、大企業による集中・寡占・独占が生じました。それがテン年代を通じて起こったことです。
Web3は、ブロックチェーン上のトークンによって、個人が用いることのできるビジネスモデルに大きなインパクトを与え、それによって、個人の創造力をエンパワーする思想と実装をやりなおそうとする「新クリエイターエコノミー」の運動という側面があります。
というのが、自分が「Web3が生まれるに至る背景」を説明するときの大まかな流れです。
この説明方法のいいところは、Web3のことを説明するにあたって、Web3を前提とした「Web2」「Web1」という非実在用語を使わなくても済むところです(実在したのは「Web2.0」や単に「World Wide Web」です)。歴史上存在した言葉だけでWeb3は語れます。
ちなみに、このスライドで早速「THE NEW CREATOR ECONOMY」という語を使わせていただきました。
8/ “web3 × ローカル” ー山古志村が問いかける「ローカルDAO」の未来
12月14日で一周年を迎えた山古志DAOの新展開です。
Nishikigoi NFTがゲートウェイとなり、各地のローカルDAOの立ち上げ支援およびローカルDAOリーグの運営を行っていく法人をファウンダーチームが中心となり、2023年に山古志村(長岡市山古志地域)に設立します。同時に、これまでは地域の任意団体(山古志住民会議)が中心となって運営してきた山古志DAOに関しても、議員立法が検討されている「DAO法」について、最新の動向を追いながら専門家チームと協議を重ね、活動実態に則した組織形態へシフトすることを考えています。DAO法が施行されるまでの移行期間を、既存の法人スキームを活用しながらもDAOを体現できるモデルをお見せできると思います。
これはつまりこういうことです。
ポジティブな議論を引き起こしています。ぜひご注目ください。
9/ 時価総額1億円以上の14体のBAYCが盗まれた手法を解説
人の信頼を得て盗む。これが新手というのだから、世界観が一周していることがよくわかります。人同士つながりや声や会話で結びついているWeb3は、現在主流のネットの世界とも、ビットコイン的な世界とも違って、極めて人間くさい。この「人」や「声」や「会話」というところが、今号でとりあげたウェブ検索の次の話に直結している部分です。そこがおもしろいですよね。
あとがき
12月13日に「NFT Summit Tokyo」に登壇してプレゼンしたのと同じ内容をポッドキャストにしました。約10分ほどです。「民俗学NFT」「ふるさと納税NFT」「体験型ダイナミックNFT」などの言葉でプロジェクトの説明をしています。あたらしい読者のみなさんで、「Game of the Lotu 遠野幻蓮譚」というNFTプロジェクトをご存知ない方はぜひ一度ご笑覧ください。
先週の遠野出張では、TONO DAOやGame of the Lotusで2023年に行う大きな企画の準備をしてきました。半分か、それ以上は実現すると思います。発表できる日がくるのが楽しみです。