遠野に7泊8日して剪定作業をしていたので、その間にお休みをいただき、3週間ぶりの配信です。おもしろい話題は尽きないのですが、強いて9本に絞り込んでお届けします。
今週のナイン・ストーリーズ
2023年2月22日〜2023年3月14日
1/ 『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とは?
まもなく生誕50周年となるRPGの元祖「D&D」のプロモーション記事なのですが、メディアヌップでたびたび言及するTRPG(テーブルトークRPG)がなんなのかお伝えしたく、ご紹介します。
D&Dは世界最初のRPG。鉛筆と紙、ルールブックとサイコロがあればプレイできます。まず、ひとりのプレイヤーがダンジョン・マスター(DM)と呼ばれる、ストーリーテラーやレフェリーのような役割を担います。DMは今回の冒険の世界観や設定を説明し、オープニングシーンを描写します。
「目が覚めたら、暗くてジメジメとした部屋にいます。上からドンドンと響く音が聞こえて、天井からは泥水がタラタラ。周りには同じく目覚め始めた仲間、そして部屋の奥にまだ寝ている巨大な鬼。鬼の隣にはイボイボ付きの金棒と鍵、そして奥には出口らしき扉。さてどうする」。ここで、ほかのプレイヤーの出番です。
あらかじめ決めたキャラクターになりきり、どうするか決めます。「私は吟遊詩人のエルフ。戦闘には自信ないけど、こそこそできるので、鬼を起こさずに静かに鍵を奪います」。サイコロを振って出た数字によって、その作戦の失敗・成功が決まります。
写真の市川紗椰が持っているのが、その冒険の際に作ったであろう手書き地図なわけですが、ファンタジーRPGをやるとこのような地図ができあがります。唯一無二の自分だけの世界。それが楽しいんですよねえ。
2/ やはり本棚は森である
ブックコーディネーターの内沼さんが、定期的に話題になる「図書館の本の廃棄」に対するリアクションを受けて、「本棚は森である」という考えを紹介しています。
続くスレッドにはこのように書かれています。
森の木を切るというと、自然の破壊だという人がいる。たしかにその木は生きている。けれど森全体を健全に保つために必要な伐採というのがある。
本の廃棄も同じだ。もちろん一冊一冊には、本としての価値がまだあったりもする。けれど「使える」本棚にするためには、間引く必要があることはある。
ちなみに自分は、リンゴの木の剪定作業を通じて同様の感覚がよくわかるわかるようになりました。木全体の実りを良くするために、元気な枝でも切らなきゃいけないことがある。本棚もそうだし、最近ではDiscordのチャンネル整理も剪定に似ているなと思うようになりました。
3/ 記憶を再生する
iPhoneで撮った動画(iPhone12以降)を3D化して、VRゴーゴルで再生する体験のデモです。
これを使ったさまざまなアイデアが思い浮かびそうですが、私はいま「RPG脳」になっているので、これを使ったセッション(冒険)をやってみたいとワクワクしています。TRPGのシナリオのためにロケハンして、それをプレーヤーに体験してもらう。そういう使い方です。waitlistの登録はこちらから。https://wistlabs.com/
4/ シティポップの終わり
「こんまりが片付けを諦める」という衝撃が記憶にあたらしいところですが、「Night Tempoがシティポップブームの終わりを告げる」というのもなかなかインパクトがありますね。
ほんとその通りだと思います。ただただ音楽を楽しめばいいんです。そんなこともわからない人間ふたりが、メディアヌップという番組でシティポップの定義についてあれこれ語っている番組があるんですが、感性が腐ってますね。
5/ ChatGPTで、ファンタジーRPGを遊ぶには
深津さんによる素晴らしい情報共有。ChatGPTで、TRPG風の冒険を楽しむためのスクリプトが公開されています。これは傑作だなと思いました。https://note.com/fladdict/n/nb66db952f992
道具の力を借りることで、ゲームマスターに挑戦する人が増え、ゲームマスターはさらに創造的なことに時間を使えるとしたら、実に楽しい世の中になりそう。
6/ うまく行っていないスタートアップを「諦める」こと
非認知能力として注目される「GRIT」を疑ってみることをお勧めする内容。
スタートアップの成功にグリットが不可欠なのは疑いようがありません。大変だからとすぐ音を上げてしまうようでは、成功を掴めるはずがないのです。しかし、事業が思っていたようにうまくいかないときには、「知的誠実さ」をもって対処したほうが全員のためになるでしょう。Annie Dukeの本では、その具体的な方法の1つとして「打ち切り基準」を決めておくことを勧めています。例えば、プロジェクトを打ち切ったり、これまでの考えを変えたり、不採算事業に見切りつけるための判断基準のことです。認知バイアスを排除して合理的にその都度判断できるように、自分のビジネスならどのような基準やタイムスパンで考えるべきか決めておくと良いでしょう。
ちなみに、ジャンプの新連載は8割が3巻以下で終わってしまうそうですが、それは、人気のない作品を足切りすると基準であると同時に、才能のある若い書き手が次の作品・次の媒体にチャレンジするための基準であるとも聞きました。「友情・努力・勝利」のように言ってみれば、「ビジョン・GRIT・諦め」はスタートアップに欠かせない掛け声なのかも。
7/ 自社カルチャーへの過剰信仰
組織にとってカルチャーほど大事なものはない、といった言説には耳慣れましたが、これはカルチャーが自家中毒を起こす話。
あまりにも完成度が高い図なのでどこをとってもおもしろいのですが、一箇所だけ引きます。
カスケード式のOKR運用を行い四半期3ヶ月のうち1.5ヶ月を目標設定と調整で埋め尽くすような謎運用。システムの奴隷となり、事業愛もない管理職を見て、誰が管理職を目指すのだろうか?
切れ味鋭く、めちゃくちゃおもしろい。
8/ 「ChatGPT」に浮かれる人が知らない恐ろしい未来
国立情報学研究所社会共有知研究センター長の新井紀子氏、そして伝説の言語学者ノーム・チョムスキー氏による警告です。
Chat GPT等に話しかけたことのある人々のうち実に多くが、「なあんだ、間違いだらけで大したことないね」とか、「すごい! なんでそんなことまで判断できるの?」といった感想を述べます。真逆のリアクションですが、その共通点は、AIに知性があると無意識のうちに錯覚してしまっていることです。
基本的には、言語的に自然なつらなりを生成するだけのものであって、間違うのは当たり前だし、判断をしているわけでもありません。にも関わらず、言語的に自然なやりとりが何回か繰り返されると、人はすっかり知性があるかのように思い込んでしまう。だから、その知性が期待より下回ったときには「あんなのたいしたことないよ」という態度になり、それを上回った時には「すごい! どうして?」という態度になります。「ChatGPTについてはよくわかってるよ」という人ですら、よくこのような態度をとることからも、錯覚を起こさしめる力がいかに強いかわかります。
ちなみに自分は、人々のAIに対する「なあんだ、間違いだらけで大したことないね」「あんなのたいしたことないよ」という発言を見聞きするたび、こんなイメージが頭に浮かびます。
こういうイメージを思い浮かべて「かわいそうだな」と思ってしまう自分も、どうかしてしまっているのかもしれません。
9/ ChatGPT won’t kill ‘writing’, but it WILL kill ‘content’
この文章の主張はシンプルで、「ChatGPTのような生成AIは、単なるコンテンツライターの仕事をなくしてしまうかもしれないけれど、真に芸術的な文章はなくせない」という内容です。
私が興味を持ったのは、「コンテンツ」という言葉にいまや「低品質」というニュアンスがつきまとい、それに憎しみが抱かれているという点です。
World Wide Webがその真価を発揮し始めた2000年頭以降、私のようなインターネットサービスを開発・運営する人々は、メディアを解剖することに熱中しました。コンテンツ(中身)とコンテナ(箱)とコンテクスト(文脈)を切り分ける考えが生まれたり、メディアの性質にストックとフローという名前を与えられたりしたのは、そうした流れのなかでのことでした。
ところがそうやって細分化されたコンテンツには、元々あったはずの「魂」がなくなってしまっていました。脳を切開しても、そこに人の精神があるわけではないように、コンテンツだけを取り出してもそこに人を感動させる真髄はない。それが決定的になったいま、コンテンツ「だけ」をことさらありがたがる態度は、人体を冒涜する解剖医みたいに忌み嫌われるのかもしれません。少なくとも、「コンテンツ」なる語に軽薄なイメージがついてしまっているとは言えると思います。
何の話かわからなくなってきましたが、こういう背景のなかで、私は、小説やポッドキャストやニュースレターやDiscordのような、メディアとコンテンツが渾然一体とした、とらえどころのないぬめぬめとしたものをつくりたがっています。
あとがき
ちなみに、リンゴもつくっています。じゃあリンゴはコンテンツか? 否。リンゴはリンゴ、サイダーはサイダー。まだ仲間集めしております。ご参加はこちらから。
https://tsukuruuniv.stores.jp/items/63ead3377d65da7d8d31ed07