2週間ぶりの配信です。その間に何をやっていたかというと……ポッドキャストを7本、日乗を8本。メディアヌップ本編は100回を超え、やりたいことがさらに爆発して最近はSIDE-Bの制作にも熱心です。私が作っているTales & Tokensでも「Demo Day」なる実演会をやりました。楽しくやっております。
しかし。
週刊を名乗りつつここのところしばらく不定期になってしまっていることを気に病んでいました。こういうものは、内容よりも形式が大事だったりします。特に4月からの私はキャプテン・オブ・ザ・シップ状態ですから、自分で決めた規律は余計に大事に守らなければいけません。
というわけで来週からは、再び毎週発行のペースに戻します。
それを実行するために、9本の記事を紹介する「ナイン・ストーリーズ」というフォーマットをやめて、3本の記事だけ紹介することにします。しかもその紹介方法を、文章ではなく語りにします。その場として使用するのが「平日回帰φ瑠」です。
アヨハタさんがはじめた「金曜回帰φ瑠」を全曜日に展開しようというプロジェクトのひとつで、私は水曜日を担当します。水曜日は「週刊メディアヌップ」の発行日にあたるので、これをトリガーにニュースレターとポッドキャストを同時配信します。
どうぞお楽しみに。というわけで以下からが、一応、今週で最後のナイン・ストーリーズです。
今週のナイン・ストーリーズ
2023年5月23日〜2023年6月7日
1/ アドビの生成AI、β版を一般公開 Adobe IDがあれば無料で使える
今から振り返ると2週間以上前のニュースですが、もうすでに、自分の仕事のなかに取り入れて久しい感覚がしています。使い慣れた道具に組み込まれると、すごいですね。
具体的には、代表的機能である「ジェネレーティブ塗りつぶし」。たとえば、4:3の画像を16:9に補ったりということなのですが、最近はTwitterもnoteもOpenSeaも要求するヘッダー画像のサイズが横に極端に長くなっているので、こうした機能はとても便利。よく見れば不自然なところは多々あるのですが、十分です。
LISTENの書き起こし機能がさらにアップデートして、複数の話者を分離して表示する機能を試みています。具体例はこちら
LISTNEがポッドキャストを文字起こししてテキスト化するのは、読むためじゃなくて、聴いてもらうためです。テキストという扱い慣れたデータにすることで「番組と番組」「番組と人」「人と人」というつながりをデータ化し、可視化し、結果として聴かれる機会を増やすことに貢献しようとしています。
今回の話者分離機能も、この機能があることで、出演者の情報をちゃんと入力しようというきっかけになり、それによってさらにデータ化や可視化が進むとおもしろいですね。
書き起こしとかテキスト化というとポッドキャストの良さを殺してしまうようなイメージをいだくかもしれませんが、実際に起こっているのは、このような「聴くことへの貢献」です。
生成AIが登場して以降、特に珍しくもない「PV稼ぎビジネスの終わり」に関する内容ですが、あえてこれをとりあげるのは、こういう理由です。
生成AIが登場するずっとずっと以前から、Googleを代表とする検索エンジンはオリジナルの記事にユーザーを送り込むことには消極的で、パブリッシャーに小銭を与えてをなだめすかしながらいかにユーザーの囲い込みを行うかに熱心でした。それが「検索栄えてウェブ落ちぶれる」という状態を生み出してきました。
ただ、それがいよいよ極まって誰の目にも明らかになってきたという点にはニュース価値があると思ってとりあげました。
4/ AIアートが変えるのは芸術の価値ではなく人間の嗜好だ:「ウィリアム・モリス効果」と生成AI
芸術家がAIを新しい道具として採用することはない、と言いたいのではない。19世紀、誕生した銀板写真に対抗して、写真家には行けないような場所に行って絵を描いた印象派の画家たちでさえ、自分の作品のためのスケッチ道具として写真を利用していた。しかしAIの創作物は、個人のビジョンと結びついていない限り、価値が認められることはないだろう。
いまの気分に非常にマッチしており、とりあげたいと思いました。私自身、生成AIが描き、SNSに投稿される作品に急速に飽きています。正確にいえば、それは生成AIの限界を示しているのではなく、生成AIに作ってもらう画像を指示する人間の想像力の限界を示しているわけなのですが、なるほど、結局、人間の想像力が限界になるのだなと。
というわけで、いろんなNFTプロジェクトでご一緒させていただいているイラストレーターさんの作品に、今いちいち感激しています(次第にお披露目できるようになると思います)。
5 “カルチャーが戦略を食う。"シリコンバレーから見た知的好奇心と忍耐強さという日本文化の価値とは|企業文化をデザインする人たち#03
元同僚のVincentに、同じく元同僚の冨田さんがインタビューした記事。めちゃくちゃおもしろくて、自分もその話にまぜて欲しくてポッドキャストを一本録りました。珍しく昼の言葉でしゃべってます。
6/ 文學界新人賞・市川沙央さん 「なにか職業が欲しかった」ままならぬ体と応募生活20年の果てに 「小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。」#1
市川さんにとって「小説家になる」とは。
「う~ん、今はプロアマの境目って限りなく薄れていますよね。私も小説投稿サイトの端に棲息していたので、読んでくれる人がいれば小説家だし、小説家になる/ならないというより、やる/やらない程度のことだと思うようになりました。そのほうが公募で一喜一憂するより精神衛生上良いですし。ただ、自分にとっては公称することができる職業名を得たというのは大きいです。この先やっていけるのかな、という不安はありますが」
迫力あるインタビュー。実におもしろかった。
ちなみに、私が最近好んでいる自己紹介の方法は、所属や肩書きや職業を名乗るのではなく、「作っているもの」を紹介すること。リンゴを作っています、とか、NFTを作っています、とか、会社の組織を円滑に動かすための仕組みを作っています、とか。その考え方でいえば、「小説を作っています」と言えるかどうかだけの話で、それは「やる/やらない程度のこと」という市川さんの発言と一致します。
しかし、西村賢太が「小説にすがりついた」ように、市川さんが「小説家」という職業名に特別な気持ちを抱いたこともよくわかります。その思いは、半端者だった自分にとっても、胸に刺さりました。
7/ メディアの未来 : Axios Finish Line
ニュースレターを書く・読む人にとって関心あるのはこのあたりではないでしょうか。
4. 受信トレイプラットフォーム。Microsoft と Google が電子メールの作成、返信、分類を支援することで魔法のように電子メールの送信を容易にするため、ニュースレターの重要性はさらに高まるでしょう。受信トレイは、コンテンツの宛先およびリポジトリとしてさらに不可欠なものになります。
8/ ゆずの新作のジャケットが生成AIを理由に非難される
正直、「え? そんなことで?」と思ったのですが、そのような感覚を持つ人々がたくさんいるということを謙虚に学ぶために、コメントに目を通しました。
たとえが適当かわからないですが、「味の素は体に悪い」という根拠のない評判に似たものがあるのかも。味の素の風評被害について詳しくはこちら
坂本龍一自身が選曲した葬儀の際のプレイリスト「funeral」からの話題。
「タイム・リメンバード」は、2015年に公開されたビル・エヴァンスのドキュメンタリー映画(原題『BILL EVANS/TIME REMEMBERED』ブルース・スピーゲル監督)のタイトルにもなっていますが、他のエヴァンスのオリジナル曲に比べれば知名度は低いかもしれません。というのは、エヴァンスの生前にこの曲が公式に発表されたのは『ビル・エヴァンス・トリオ・ウィズ・シンフォニー・オーケストラ』の1ヴァージョンだけだったから。しかしエヴァンスの死後、それまで未発表になっていた多くのヴァージョンがアルバム化されたため、じつは何度も演奏・録音されていた愛奏曲だったということがわかりました。
ちなみに、プレイリストといえば坂本龍一がラジオでかけた曲を挙げている「SKMT picks」が好きでよく聴いています。297曲39時間34分あります。
あとがき
今週の積読のスナップショットをとってみました。ファンタジー、民俗学、神話、山。そのあたりに再び関心を持っています。
ちなみに今週末は、「遠野物語の夜」というオンラインイベントがあります。マニアが集まって、遠野物語への一年分の関心をぶつける楽しいイベントです。
ご参加はこちらから。
https://discord.com/events/955450183800487936/1105304362810622052
というわけで以後は毎週発行のペースに戻したいと思います。
習慣メディアヌップにしちゃえばいいのでは