ささきる(@sasakill)が気になったニュースにコメントを添えて、1週間分まとめてお送りします。今回で5通目。いまのところ飽きずに続いています。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年2月16日〜2022年2月22日
1. Google検索は死にかけている
以前から「指標あがって体験落ち、検索栄えてウェブ落ちぶれる」と言い続けていたのですが、今週は「Google検索は死にかけている」という記事が話題になりました。
最近登場した、 Dead InternetTheoryと呼ばれる楽しい陰謀説があります。主張は基本的にインターネットのほとんどがボットであるということです。ここにはもう実在の人物はいません。
TLDR:インターネット上で人間が作成したと思われるコンテンツの大部分は、実際には、新たに正規化された文化的製品の範囲を拡大するために消費者を製造するために、有料の秘密メディアインフルエンサーと連携した人工知能ネットワークによって生成されています。
これは(まだ)真実ではありませんが、本物のWebがなくなったという一般的な感覚を反映しています。
Google検索が死にかけているというよりも、かつてのWebが今では見当たらなくなったという感覚。これが「検索栄えてウェブ落ちぶれる」というやつです。
もうひとつ、同じ著者が書いた「世界の情報を整理する」からもひとつ引いてみたいと思います。
Googleが台頭してきて、すべてのウェブディレクトリーが没落したとき、私たちは図書館というメタファーを失った。私たちは、特定の目的を持たずに様々なテーマのブログを探索する能力を失ってしまった
図書館のない情報の世界は、まるでディズニーランドの「カリブの海賊」のようです。ヴィークルに乗ってプログラムされた景色を楽しむだけ、みたいな。
2. 技術の進歩はコンテンツとメディアを分離した
鷹野凌さんによるデジタル出版論から。
このうち、書籍、雑誌、新聞は、伝える情報がそのまま紙に印刷されています。つまり、コンテンツとメディアが一体になっています。ところが19世紀に発明されたレコードは、音楽を再生するために専用の機械が必要です。以下、他の物理メディアもすべて同様で、人間が知覚できない形で情報が保存されています。これは、電信、通信、放送といった他の新しいメディアにも言えることです。
ここからふたつのことを思いました。
ひとつは、分離してしまったコンテンツとメディアの体験をいかに統合するかという視点です。私の仕事上では日頃「コンテンツ = 魂」「メディア = 肉体」と説明していているのですが、魂だけ取り出して永遠に生き長らえさせようとしたら肉体がまず死にかけ、次いで魂もまた死にかけてしまう、ということがおこります。つまり、本からテクストだけを取り出したら本もテクストも死んじゃった、というようなこと。肉体は大事です。その肉体に、魂を再び降霊させるようなことをしたいと思い続けています。
もうひとつは、話題のNFTも単なるメディアに過ぎないということです。いまNFTと聞くと怒り出す人がいますが、かつては、レコードに対して怒っていた人がいました。「音楽は生で聴くものだ」「録音に頼るのは二流の音楽家ばかりだ」などなど。たしかに初期のレコードは音質が悪かったですし、一流の音楽家は演奏会を重視して積極的に録音することはありませんでした。しかしその後、録音された音楽芸術は世界の文化に大きなインパクトを与えました。録音によってグレン・グールドのようなあたらしい演奏が誕生したり、視覚によらないという音楽の特徴が皮膚の色を超えた文化の融合を推し進めたり。レコードというメディアに怒ってもしょうがないように、NFTというメディアに怒ってもしょうがありません。そこから生まれるコンテンツと文化のほうに目を凝らしたいと思います。
3. 「メタバース、現実あってこそ」米ナイアンティックCEO - 日経新聞社
没入型のメタバースには大きな期待がかけられているので反対意見が見えづらくなっていますが、その代表格にナイアンティックのCEOのジョン・ハンケ氏がいます。
「多くの人は現実世界の代わりになる3次元の仮想環境をイメージしている。それは人間としての体験のうち限られた部分を切り取ったものであり、悪夢のようだ」
現実社会やリアル世界への興味を失わせる技術やサービスに懐疑的な態度を取り、警鐘を鳴らす人は、ビジネスの世界においては非常に珍しい存在です。今後もウォッチしていきたいと思います。
ポッドキャストは「フリーインターネットの最後の砦」と呼ばれますが(参照)、実際にやってみてその感覚がよくわかりました。その思いを強く持つ者にとっては、昨今のJAPAN PODCAST AWARDSの盛り上がりにはうれしさ半分さみしさ半分といった気持ちもあるようです。つまり、実際には個人が趣味で制作しているものが数の上でも多いし、実際によく聞かれてもいるんだけれど、トップオブトップ の表彰イベントとなると、法人が仕事として制作しているものが占めてしまう、というようなことです。そういう背景を考えると、「ドングリFMの音源は誰がどう使ってもいいです」という宣言は、単にオープン&シェアなマインドの発露というだけではなく、フリーインターネットの最後の砦としてのポッドキャストとそのシーンを我が身をもって盛り上げようとする果敢な挑戦の意味があって、それってすごくいいなと思います。と、言ってるそばからドングリFMのデータを使ったコンテンツが早くも生まれてきているようです。これとか。聞いててハッピーな気持ちになりました。
5. 著者的に近所の古本屋に自分の本があるのは実はうれしいがブックオフに大量にあるとなんだかなと思う。
大塚英志さんのこのツイートに、多くの反響が集まっていました。それを分解すると、ブックオフの株主に大手の印刷会社・書店・出版社が含まれていることを知った驚きと、著者に歓迎される二次流通とそうでない二次流通があることへの気付きがあったのではないでしょうか。
ここからは私の個人的な興味の話になりますが、最近よく「著者と読者に歓迎されるデジタル上の二次流通」のことを考えています。そして、考えているだけでなく実際にやってみようと思って準備しています。
6. スナックと柳田國男
遠野でスナックを経営している友人のツイートをいつも楽しみに見ています。昨年は、宮本常一の『イザベラ・バードの旅『日本奥地紀行』を読む』を参考に北海道を旅していましたが、今年は柳田國男の『明治大正史 世相編』にたどり着いたということです。
興味深いのは、これが学者目線で「スナックに民俗学の現場を発見した」という話なのではなく、「スナックの現場から民俗学の必要性が立ち上がろうとしている」というところにあります。発見されたのは民俗学のほうです。
こういう過度な期待を書くと「買いかぶりすぎです」と嫌がられそうですが、興味津々なので書いちゃいました。
7. Web3 Quick Tour without Finance, Art, Game and Metaverse
友人・知人に向けて作った勉強会の資料です。デモをお見せする前提の資料なのでこれだけでは不完全なのですが、金融やアートやゲームやメタバースには触れず、イデオロギーの話も一切抜きという資料は珍しいようなので、何かの役に立つこともあるかもしれないと思って共有します。
中から一枚だけ抜き出すとすると、14ページ目はいかがでしょうか。現状のよくある心理とWeb3での心理がぜんぜん違うものであることがわかると思います。
8. Magic the Gatheringの経営状況が明らかに
投資家向けに公開されたハスブロ社の経営状況( https://freethewizards.com/ )。それによって、これまで明かされたことのなかったMagic the Gatheringのさまざまな実体が明らかになりました。見どころはたくさんあるのですが、「遊戯王」や「ポケモンカード」などのプレイヤーが最後にたどりつくタイトルがMagic the Gatheringであるという話が門外漢にはおもしろいかもしれません。市場のシェアでは必ずしもトップではないタイトルが、なぜこれほど長期にわたって尊敬を集めているかというと、それが元祖であり終着点だからです。Magic the Gatheringのすごさについては、まだまだ市場から過小評価されていると思いますので、機会を作って少しずつ翻訳していきたいと思います。
9. OnCyberは単なる美術館じゃないという話
連続したツイートのなかで、OnCyberで販売・購入の体験が完結する話が紹介されています。そこから先は各人が好きなものを思い浮かべればよいと思うのですが、こういうとき私はいつも本や本屋のことを考えます。
あとがき
最後まで読んでいただきありがとうございます。たくさん紹介しているわけでもないし、ひとつひとつは長くないのですが、それぞれの話題に興味があるものですから、まとめるのに労力がかかりました。
現在、ポッドキャストのシーズン2の準備が佳境です。テーマは『遠野物語』。それを「ソーシャルメディア」「二次創作」「気候変動」「デザイン」といった意外な切り口から取り上げていきます。さらに、その内容にあわせた書店を神保町にオープンします。といっても「PASSAGE」という共同書店の一画なんですが、それでもオーナーはオーナーです。ポッドキャストのテーマと連動した書棚を作るという遊びを楽しんでいます。