ささきる(@sasakill)が気になったニュースにコメントを添えて、1週間分まとめてお送りします。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年3月9日〜2022年3月15日
1. 『100年ドラえもん』が世界で最も美しい本コンクール2022で銅賞を受賞
うれしいニュースが飛び込んできました。「100年後にも残る本を」というコンセプトで作られた愛蔵版全45巻セットの『100年ドラえもん』が今年の「BEST BOOK DESIGN FROM ALL OVER THE WORLD / 世界で最も美しい本コンクール2022」の銅賞を受賞しました。
私が銅賞を受賞したのは2020年だったのですが、その『僕らのネクロマンシー』は、柳田國男の『遠野物語』(1910年)の影響を受けて、100年後にも残るような本を作るにはどうしたらよいかを考えて作ったものでした。その単純な答えは、本の中身(コンテンツ)を乗せる物体(メディア)を極限まで「強くする」というものでしたので、この『100年ドラえもん』のコンセプトには強いシンパシーを感じます。それだけにうれしいです。
2. SubstackのiOSアプリが登場
「アプリがあったら便利になる」というのは、いまだによく信じられている幻想のひとつだと思います。いまのところ、スマートフォンアプリであることがニュースレターの強みを生かしているようには思えません。でも、Substackで配信されているポッドキャストだけをまとめてチェックできる機能には「おっ」と思わされました。と言ってもいまのところ「メディアヌップ」と「かいだん」しかないわけですが、自分たちが実験台となっていろいろ試してみようと思います。
その「かいだん」がSubstackについて熱く語った回はこちら。おすすめです。
3. #クリエイターエコノミー勉強会
noteの徳力さんとOff Topicの宮武さんのトークイベント。徳力さんは事前にクリエイターエコノミーを3つのレイヤーに分けました(参照)。引用します。
レイヤー2:インフルエンサーマーケティングの出現
プラットフォーム上で影響力を持つようになった「インフルエンサー」を活用した広告ビジネスが2010年頃から確立しはじめ、2015年頃から一気に拡大。ここがレイヤー2になります。レイヤー3:ビジネスとしてのクリエイター活動
狭い意味での「クリエイターエコノミー」というのが、クリエイターが直接ファンや消費者から収益を得られるようになった時代のことで、ここが本丸のレイヤー3。
クリエイターエコノミーなんて昔からありそうな概念に聞こえますが、それがいま注目されているのは、主に「レイヤー3」のことを指しているわけです。
ところが、番組の中で寄せられた「後発のクリエーターが見つかるためにはどうすればよいか?」という質問に対して、おふたりはこのように回答します。
私が違和感を持つのは、これが「レイヤー2」における回答に他ならないからです。プラットフォームのアルゴリズムがコンテンツの流通を支配している状況において、その裏をかいたりニッチを発見しようとすること。それは正しい戦略だとは思いますが、いまクリエイターエコノミーが盛り上がっている「レイヤー3」の特徴を捉えた答えではないように思います。
レイヤー3は、プラットフォームではなくコミュニティによって駆動しています。RobloxもNFTもクリエイター"間"エコノミーであるところに特徴があって、プラットフォームに依存しない多様で適正サイズなチャンスがたくさんあるところがおもしろいのだと思います。そこで後発のクリエーターがやるべきは、ギブ・アンド・ギブでコミュニティに働きかけること、なのではないでしょうか。
4. 自己帰属感と運動主体感
Sense of ownership(自己帰属感)という概念と、sense of agency(運動主体感)という概念があります。それはまず人間の身体の話なのですが、それは容易にUI(ユーザーインターフェース)の話に拡張します。それが上のリンクです。
今週これを取り上げたのは、この考え方、特に「sense of agency」を組織の哲学や行動原則に当てはめられないだろうかと思案していたからです。自分がやったことではなく、組織のなかの他者がやったことだとしても、それに対して「制御している感」があって、「自分が引き起こした感」がある。しかもその感覚が相互に張り巡らされてる組織があるとしたら、それってすごいことじゃありませんか?
5.「最初のTikTok戦争」の神話 - The Atlantic
戦争とメディアの関係で歴史を振り返ると、1991年の湾岸戦争はCNNとともに記憶された組み合わせとして有名です。その後も、YouTubeやFacebookやInstagramやTwitterなどがそのときどきの戦争や紛争とともに記憶され、その最新形がTikTokで、いずれはDiscordやTwitchになるだろうという話なのですが、個人的には拙速に「The TikTok War」という単語ひとつでわかった気になってしまうことを恐れます。なのでいまのところは「ほう、なるほど」くらいに保留しているわけですが、保留していることを覚えておくために取り上げました。
6. Journalism-as-a-Service / FTI Report 2022
FTIが毎年発表している恒例のレポートの「Vol.5 News & Information」から一部抜粋。
サービスとしてのジャーナリズムというトレンドがレポートに載るのは今年で8年目。つまり、2015年がこのトレンドに最初の注意が促された年ということになります。あの有名なNYTの「イノベーションレポート」が作成されたのが2014年ですので、その翌年からですね。
自分が好んで引用するジェフ・ジャービスの『デジタルジャーナリズムは稼げるか』(原著2015年, 邦訳2016年)では、メディアがサービス化する必要性が繰り返し説かれています。
メディアは今後、コンテンツの作成、販売業者ではなく、グーグルやフェイスブックにも似たサービス業者となるべきだ。情報を提供するだけでなく、利用者にとって目標達成の手助けとなるサービスを提供する。良いサービスを提供するには、利用者との間の緊密な関係の構築が重要になる。利用者との緊密な関係ができれば、ひたすら数、量を追求するビジネスから質を追求するビジネスへと転換できる。
もうひとつ。
ジャーナリストだけでは仕事が完結せず、一般の人たちの助けがあってはじめて終わるということが増える。そのためには、人々が自ら積極的に情報を共有したいと思わせるようなツール、場を提供する必要がある。ジャーナリズムは、コンテンツを制作する仕事ではなく、サービス業だというのはそういう意味だ。
レポートではこれに対して「Act Now」つまり、十分な証拠とデータがあり、トレンドはすでに成熟しているので、いますぐ行動を起こす必要があると言っています。
7. Proof of Everything
引き続き、FTI Report 2022から。
このトレンドの掲載は今年が1年目で、ステータスは「Watch Closely」つまり「エビデンスやデータは蓄積されているが、より成熟する必要である。この傾向をビジョン作成、計画、研究に役立てること」ということになります。
NFTで行えることのバリエーションを紹介するために、「Vol.11 Decentralization & Blockchain」から抜き出してみました。アートやゲームアイテムとしての派手な値上がりばかりが注目されていますが、NFTはイベントに参加したことの証明(poap.xyz)や学習の証明(rabbithole.gg)にも活用されています。
8. WIREDのWeb3特集号から、Web3を知るための100のキーワード
用語はいずれにしろ古びるものだからこそ、ある時点のスナップショットが出版物として残されていることにはめちゃくちゃ大きな価値があると思います。これだけとっても、10年後まで保存しておきたくなるような特集号です。
用語集には、メジャーなものから「それ収録する!?」と思うようなものまで含まれていますが、私は77個わかりました(23個についてはわかりませんでした)。自分が昨年末にWeb3に興味をもったときには、ほとんどが初耳の単語ばかりで、愚直にひとつひとつ書き出して勉強しました。そのときにこれがあればよかったなと。
9. 追悼=作家・石原慎太郎 - 週刊読書人
作家としてあまり省みられることのない石原慎太郎について、栗原裕一郎と豊﨑由美があくまでその作品をもとにした追悼対談を行いました。そこでは、特に2つの短編が傑作として挙げられています。
豊崎: わたしは圧倒的に「院内」だなあ。「院内」は、慎太郎タイプの作家がどうして書けたのかって驚くばかりの奇跡のような作品だと思います。
栗原: 女性差別・弱者差別的で読者を選ぶし、それこそいまなら間違いなくキャンセルされる作品でしょうが、そういう問題面まで含めて、「完全な遊戯」ですね。あの短編はひとつの到達点だと思います。
「西村賢太が私淑した」ということで間接的にしか知らなかった作家ですが、これを機に読んでみようと思います(「院内」のほうは『生還』という作品集に収録されてKindleで495円で買えました)。
あとがき
今週、ひさしぶりにTwitterのアイコンを変更しました。
描いたのは @mizzusano さんで、けんすうさんのアイコンを最初に作成した人です。NFTの話をしていたら盛り上がって、突如いろんな作品を発行し始めたので、私も記念にと買い求めた格好です。気になる方はOpenSeaでどうぞ。
自分はといえば、アイコンを変えたことで気分まで変わって、この顔だったらちょっとくらいを毒を吐いてもいいんじゃないかと、大きな気分になってしまいました。アイコンを変えるとペルソナまで変わるってのがおもしろいですね。