イベントに参加したらブログを書くという古えの作法を思い出して、ひさびさのニュースレターです。およそ2年ぶり。
今週の話題
#1 StoryHub Ensemble 2025
昔の仲間たちがつくっているプロダクト「StoryHub」が初の大型イベントをやるということで応援に行ってきました。イベントを通じてもっとも重要なメッセージは、たぶん次のようなこと。
- 私達は、「記事作成支援カンパニー」から「情報産業のエコシステム支援カンパニー」へと脱皮します。(StoryHubのPMFを足がかりに、もうひとつレベルの高い目標設定をします、ということ) 
- 具体的には、「InterviewHub」(正式名称だったか不明。間違ってたらすみません)という、一次情報を得る部分のペインを解消するプロダクトを出します。(それは既存事業の「StoryHub」の入口となる、エントリープロダクトとなる) 
- AI時代の「ジャーナリスト(journalist)」は実はもう誕生していて、それは過去の大文字の「ジャーナリスト(JOURNALIST)」像とはかなり違いますよ(これは、とても小さな声で語られていた) 
1の「情報産業のエコシステム支援カンパニー」については、プレゼンテーションのなかで直接語られていることではありますが、言葉以上に本気であることがイベントを通して伝わりました。
CEOの田島さんはスマートニュース時代に「パブリケーション・ネットワーク」というフィード部分のペインの解決に取り組んでいた人だし、ゲストにスマートニュースのLandonさんが呼ばれているのは、名前の売れているスタートアップの威光を借りたかったという訳ではなく、「情報産業のエコシステム支援カンパニー」として同じ理想を共有する相手だからだということが、話の内容から伝わりました。端から見ていると、「おまえらつきあっちゃえよ」と思うようなあたたかい光景でした。スマートニュースの昔の仲間たちがStoryHubに集う理由がよくわかる。
2の「InterviewHub」については、イベント中には開発中の画面のスクリーンショットしか共有されなかったのですが、そのUIから想像するに、「NotebookLM」+「マン・カインド的」なプロダクトだと思われます。
NotebookLMらしさというのは、インタビューの事前準備として資料をアップロードしたり、取材の方向性を事前に相談したりといったこと。「マン・カインド的」というのは、藤井太洋さんの小説『マイ・カインド』に登場するインタビュー支援のアプリケーションのことで、インタビュアーとインタビュイーの会話をリアルタイムに分析し、それをマインドマップとして描画し、どの話を掘り下げて聞くべきかをツリー構造の単語として把握する、というものです。会場で田島さんを捕まえて訪ねたら、やはり『マン・カインド』から霊感を受けて作っているとのこと。その話を聞いて、いま一番リリースが楽しみなプロダクトになりました。
ちなみに、メディアヌップでは過去に『マン・カインド』について語り合っています。メディア産業に関わる人にはぜひ読んでほしい名作。
3について。AI時代の小文字の「ジャーナリスト(journalist)」は実はもう誕生していますよという話は、私の解釈です。その解釈に至った手がかりを書きます。
まず、朝日新聞社のCEOの角田さんは基調講演で次のようなことを言いました。「従来の記者の役割をする人は200名くらいで十分になるだろう」。その一方で「その人しか知り得ない情報を持っている人、たとえば長野の山岳ジャーナリストなどとの連携はメディアにとって大切」。
次に、「生成AI×メディア編集の現場」というセッションにおいて、JADEの伊東さんとスキナヒトの中山さんが、AIを使ったコンテンツ制作についてかなり具体的なプレゼンテーションを行ってくれました。司会の高野さんが「海外アーティストのライブみたい」と言っていましたが、まさにそれ。ステージを撮影しようと掲げられる数々のスマホが暗い会場で光を放っていて、参加者の高い関心を示していました。
つまり、StoryHub / InterviewHubやその他の生成AIよって取材・執筆・編集の技術障壁が下がった結果として、貴重な一次情報にアクセスできる人や、知りたいという動機を持つ人があらたなジャーナリストとしてすでにバリューを発揮し始めている。実体験としても、今年『湖の底で戦争が始まる』という本の制作を通じて、「自分は今ジャーナリストをやっているんだな」と感じていました。訓練は受けていないけれども、道具に力を借りることで、自分もまたジャーナリストであることを自覚するわけです。
これがあらたなジャーナリスト像なのだということは、セッションの最中ではまったく語られませんでした。会場には大文字の「ジャーナリスト(JOURNALIST)」もいらっしゃったと思うので、そこで新旧の対立を生み出すような言葉が用いられないのはもちろんですが、あらたなジャーナリスト像がまだ本当の説得力を持っていないということでもあったと思います。それは、あらたなジャーナリストが生み出すコンテンツが、まだ、既存の情報産業のエコシステムの「流通として」うまく扱えていないからです。ただし、その改善についてもいずれは着手したいという野望をもっているのがStoryHubのメンバーです。直接聞いてないけど、きっとそう。
あとがき
いつものようにいろんなニュースについてコメントしようと思って書き始めたのですが、1本目が長くなりすぎてタイムオーバー。「Web小説サイト『カクヨム』でAI生成小説がランキング1位になり議論を呼ぶ」については、いつか取り上げたいと思いますが、要は「コンテンツ・イズ・デッド」ということが言いたい。プラットフォームに依存してコンテンツづくりをしている時点で、その人間はすでに機械より劣る存在に自らを堕してしまっているのです。
詳しくはこちらで。さよなら!




