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#029 宮沢賢治記念館で『春と修羅』を朗読する
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#029 宮沢賢治記念館で『春と修羅』を朗読する

シーズン4 ポッドキャスター合宿 in 遠野 #3

こんばんは。ささきるです。第3話は、合宿2日目の午前中に訪れた宮沢賢治記念館(花巻市)での様子をお届けします。あまりに絶好なロケーションに3人とも言葉を失い、やがて興がのって詩の朗読をしはじめます。どうぞお楽しみください。


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番組のキーワード

ZOOM H6を持ちながら宮沢賢治記念館を訪れるtelさん
宮沢賢治記念館は、東北新幹線の「新花巻駅」を降りて車で5分程度のところにあります。東京から行く際には、「土澤のアートクラフトフェア」の季節に一緒に訪れるのがお薦めです。

宮沢賢治記念館はこんな場所
奥にちらっと見えるのが記念館。緑に恵まれた小高い山の中腹にあります。ここで鳥のさえずりを聞きながら収録しました。

『春と修羅』(宮沢賢治)
1924年に出版された詩集、というか心象スケッチ。1922年から1923年にわたる22か月間の記録であることが序に宣言されています。

これらは二十二箇月の
過去とかんずる方角から
紙と鉱質インクをつらね
(すべてわたくしと明滅し
 みんなが同時に感ずるもの)
ここまでたもちつゞけられた
かげとひかりのひとくさりづつ
そのとほりの心象スケツチです

どこをとっても素晴らしいのですが、番組中に読み上げたのは以下の部分です。地質学的な時間の長さが、地理的にも空間的にもどこまでも延びている世界観が現れていて好きな部分です。

おそらくこれから二千年もたつたころは
それ相当のちがつた地質学が流用され
相当した証拠もまた次次過去から現出し
みんなは二千年ぐらゐ前には
青ぞらいつぱいの無色な孔雀が居たとおもひ
新進の大学士たちは気圏のいちばんの上層
きらびやかな氷窒素のあたりから
すてきな化石を発掘したり
あるいは白堊紀砂岩の層面に
透明な人類の巨大な足跡を
発見するかもしれません

すべてこれらの命題は
心象や時間それ自身の性質として
第四次延長のなかで主張されます

春と修羅 序(青空文庫)

ちなみに次の写真は、私が当日持ち込んだ新潮文庫から詩集(天沢退二郎編)。繰り返し読んだことで、だいぶ年季が入っています。

農民芸術概論要綱
世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」の一節で有名。研究によると、ウィリアム・モリスの影響もあるそうです。

おれたちはみな農民である ずゐぶん忙がしく仕事もつらい
もっと明るく生き生きと生活をする道を見付けたい
われらの古い師父たちの中にはさういふ人も応々あった
近代科学の実証と求道者たちの実験とわれらの直観の一致に於て論じたい
世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない
自我の意識は個人から集団社会宇宙と次第に進化する
この方向は古い聖者の踏みまた教へた道ではないか
新たな時代は世界が一の意識になり生物となる方向にある
正しく強く生きるとは銀河系を自らの中に意識してこれに応じて行くことである
われらは世界のまことの幸福を索ねよう 求道すでに道である

農民芸術概論綱要

屈折率

番組中では「またアラツデイン 洋燈とり」のところがいいよね、という話でもりあがりました。

七つ森のこつちのひとつが
水の中よりもつと明るく
そしてたいへん巨きいのに
わたくしはでこぼこ凍つたみちをふみ
このでこぼこの雪をふみ
向ふの縮れた亜鉛の雲へ
陰気な郵便脚夫のやうに
  (またアラツデイン 洋燈とり)
急がなければならないのか

永訣の朝

telさんが気に入った作品。「あめゆじとてちてけんじゃ」は岩手の方言で「雨雪を取って来てちょうだい」という意味です。

けふのうちに
とほくへいつてしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふつておもてはへんにあかるいのだ
   (*あめゆじゆとてちてけんじや)
うすあかくいつそう陰惨な雲から
みぞれはびちよびちよふつてくる
   (あめゆじゆとてちてけんじや)

原体剣舞連

私が大好きな作品。悪路王が出てきたり、アンドロメダが出てきたり。宮沢賢治の目を通すと、民俗芸能が太古の時代から宇宙にまで広がりを持ちます。

  Ho! Ho! Ho!
     むかし達谷の悪路王
     まつくらくらの二里の洞
     わたるは夢と黒夜神
     首は刻まれ漬けられ
アンドロメダもかゞりにゆすれ
     青い仮面このこけおどし
     太刀を浴びてはいつぷかぷ
     夜風の底の蜘蛛をどり
     胃袋はいてぎつたぎた
  dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah

告別
私の世代でいうと、土田世紀の漫画『編集王』で効果的に使われたことで有名。小さな世界で天狗になった若者の鼻をへし折りまくった名作、名句。

けれどもいまごろちゃうどおまへの年ごろで
おまへの素質と力をもってゐるものは
町と村との一万人のなかになら
おそらく五人はあるだらう
それらのひとのどの人もまたどのひとも
五年のあひだにそれを大抵無くすのだ
生活のためにけづられたり
自分でそれをなくすのだ
すべての才や力や材といふものは
ひとにとゞまるものでない
ひとさへひとにとゞまらぬ
云はなかったが、
おれは四月はもう学校に居ないのだ
恐らく暗くけはしいみちをあるくだらう
そのあとでおまへのいまのちからがにぶり
きれいな音の正しい調子とその明るさを失って
ふたたび回復できないならば
おれはおまへをもう見ない

春と修羅 第二集

青森挽歌

このイメージ喚起力! 番組中、テンションがあがって大声を出してしまいました。

こんなやみよののはらのなかをゆくときは
客車のまどはみんな水族館の窓になる
   (乾いたでんしんばしらの列が
    せはしく遷つてゐるらしい
    きしやは銀河系の玲瓏レンズ
    巨きな水素のりんごのなかをかけてゐる)

小岩井農場
青森挽歌と同じ電車もの。冒頭の一節は、はっぴいえんどの「抱きしめたい」の一節「飴いろの雲についたら 浮かぶ驛の沈むホームに とても素早く 飛び降りるので きみをもやしてしまうかもしれません」の元ネタ。宮本さんがはっぴいえんどが好きだそうなので、書きました。

わたくしはずゐぶんすばやく汽車からおりた
そのために雲がぎらつとひかつたくらゐだ

ちなみに、その小岩井農場のジオラマがあります。どこを歩きながらどの詩を読んだのかが立体的に表示してあるという最高の展示物です。

春と修羅、風の又三郎、注文の多い料理店の初版復刻版
宮本さんの私物。日本近代文学館から1985年に復刻された3冊セット。

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次回もお楽しみに。


制作ノート

企画: ささきる
出演: ささきる, tel, 宮本
編集・ディレクション: tel
制作協力: 株式会社Next Commons
2022年5月24日収録

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