2023年、あけましておめでとうございます。今年もマイペースで続けていきたいと思います。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年12月29日〜2023年1月10日
1/ AI 激動の年!2022年の人工知能10大トレンドと必読論文
はじめは、年末年始のまとめにふさわしいこの記事から。「Stable Diffusion」「Whisper」「ChatGPT」を特に「AI三大事件」としています。
2/ bitFlyer BlockchainのWeb3リサーチ2023
元旦にリリースされた大作。序盤、中盤、終盤、スキがない資料で、特に「Web2.0とWeb3の言葉の定義警察」の私としては、それらの定義が簡潔にして非常に正しいことが非常にうれしかったですね。決定版として共有したい。
昨年、回収騒ぎで話題になった『いちばんやさしいWeb3の教本』を真正面からやり直したのがこの資料なのでは、という気がします。
イノべーションは必ず負のインパクトを伴い、得てして誰かの未来がほかの未来とトレードオフになる。だからこそ、耳に心地いいパーパスを後生大事にするのではなく、「それは誰のための未来なのか」を常に想像し、問い直す不断の態度がいまや必要となるはずだ。
23年は、その問いが誰の目にも明らかになる年となるだろう。その兆候はすでにある。アプリ配信の手数料を巡ってエピックゲームズがアップルを提訴した一連の動きは、「デジタル農奴制」とも揶揄されるいまのプラットフォーム資本主義に風穴を開け、未来を一人ひとりの手へと引き寄せるだろう。ハイプを超えたクリプトとWeb3はクリエイターエコノミーを促進し、小売や飲食業、協同組合からネイバーフッドに至るまで、多様な価値創造の黄金時代を準備するだろう。
エピックゲームズの件は、CEOが「今年フォートナイトはiOSに帰ってくる!」という宣言もしており、今年、気になる動きがありそうです。
ちなみに以下は2020年に書いたブログ。ちょっと感慨深いので引いてみます。
今後、Epic GamesとApple/Googleの喧嘩がどうなるかというと、「フォートナイト」側がプラットフォームから追い出されても構わないという準備を整え、あらかじめ負け目を潰して挑んでいる以上、Apple/Googleがそう望んでも元の状態には戻らないだろう。そして、そのような戦い方が可能だと証明された後は、それに続く人が出てくるだろう。今日は、そんな不可逆な変化が起こった記念すべき日だったと後に振り返られることになるはずだ。
総じて、未来は、小さきものにポジティブな力を与えてくれると信じられる状態で新年を迎えるのは、とても気持ちのよいものですね。
4/ 我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこに行くのか
NFTは投機マネーを吸い寄せて大儲けできるようなものではなくなり、デジタルデータを適正な価格で流通・販売するための手段へと緩やかに変化していくでしょう。(中略)
その中で脱落せずに生き残っていくためには、誠実に何らかの価値を生み出してお互いを助け合う輪の中に入ること、give & awayの「give」ができる人だと周囲から認められるよう、背筋を伸ばして真面目にコツコツ活動するしかないと思います。
こちらはNFTに関する2023年に向けた予言。手堅い見方であり、Web3リアリストの私としては最初からずっと好んでいた見方でもありますし、そういうものだとも思っていました。
一方、こういう予測もまた然りだと思います。
匿名性と自由を重んじるWeb3的な考え方を愛する人たちも依然界隈に残り続けるので、二極化が進むと思います
過去の週刊メディアヌップのなかでは、「暗号精神」と「暗号文化」という言葉を用いたWeb3のなかでの考え方の違いを紹介したことがありましたが、その定義に照らすと「いち早く情報を手に入れてdiscordに入り、無意味なチャットでレベルを上げたり、プロジェクトとは関係ないミニゲーム大会やくじ引きでAllow Listを手に入れさえすれば、濡れ手に粟のボロ儲けができる」みたいなことが「暗号文化」と呼ばれて批判の対象になっています。
これらの言葉を使って説明すると、オリジナルの「暗号精神」というべきものと、一般的な商習慣やモラルの両方で二極化する、というような意味ですかね。そういう意味での二極化であれば、私のなかにも存在します。
5/ Vaporwave is not Dead.
ヴェイパーウェイブという音楽(と映像)のジャンルが登場したのはもう10年も前のこと。
今あらためてこれを取り上げてみようと思ったのは、体験したことのない過去を懐かしく思えるこの感覚が、「私たちはGenerative AIが生成する作品にあらゆる感情を刺激されてそれに耽溺し得る」という可能性を端的に示しているように思えて、それがなんだかおもしろかったからです。Vaporwaveにふれると、人間の心なんて(そんなものがあるとして、ですが)、まったくもって高級なものじゃなくて、その場その場の入力が乱反射して生じている信号に過ぎないという感覚が得られます。
6/ ChatGTPでTRPGのシナリオプロットは作れるか検証してみた
ならば、TRPGのシナリオ作成をサポートしてもらえるのでは、なんなら自動で作成してくれるのではと考え試してみました。
なお、タイトルでネタバレしている通り検証レベルではありますが、今後の技術の発展につれ、AI絵描きと同じように話題になる可能性もあるので記録として残しておきます。
同じようなことを試している人はたくさんいるので、その一例として。
TRPGは、ビデオゲームであれば機械が行う計算や記録を人間が行うところに特徴があります。だからこそ、柔軟で機転の効いたストーリー展開が楽しめるわけです。
ということは、その人間が行う処理を助けてくれるGenerative AIがあれば喜んで試しますよね。イラスト、音声、テキスト、シナリオなど。もしそれらをうまく使えたら、複数人が集まってサイコロを振りながら会話をしているだけなのに、終わってみるとそれが小説や漫画やアニメのような形式でリプレイ作品になっている、なんてことも想像できます。
楽しみでしょうがない。ので、今年は自分でもそういうコンテンツかサービスを作ってみたいと思います。
「大規模言語モデル」として最も広く名の知られているGPT-3は、すでに少なくともひとりの人物に自殺を促した。(無知なユーザーではなく)フランスの「ナブラ(Nabla)」というスタートアップが医療目的におけるGPT-3の有効性を評価するために準備した、厳格にコントロールされた環境であったにもかかわらず、だ。
(中略)
大規模言語モデルはこれまでのどのテクノロジーよりも人間をだますのが得意で、しかも制御するのが極めて難しい。これは危険な組み合わせだ。さらに悪いことに、それらはどんどん安価になり、普及が進んでいる。
拙著『僕らのネクロマンシー』には、機械的知性の言葉を信じた学生が集団自殺を起こすという事件が登場しますが、それに近いことが現実でも起こるようになったという記録としてとりあげておきたいと思います。
ちなみに、自分がなぜそのようなことを6〜7年前に幻視できたかというと、ネタを明かせば単純で、WELQの不正確な医療情報が問題になった事件にインスピレーションを受けたことによります。ちなみに、小説のそのパートを書いた後には、「クックパッド」のレシピを見て乳児にはちみつを与えて死亡させたという事件も起こりました。
つまりチャットボットが人の健康や生命に害を及ぼす事件を予想するのはとても簡単で、それは今後、実際に普及が進むにつれてもっと問題になると思います。広告モデルとは特に相性が悪い。そのあたりの問題を解決する手法として、Generative AIにWeb3を結びつけるべき理由があると思います。
8/ 日本のなかの対立について
これについて、あるかないかの二元論でいえばあります。ではそれがどの程度あるかという認識、そして解釈の話になると、意見がわかれます。「アメリカと同じくらいあるよ」という人もいれば、「そんなの全然たいしたことはない」という人もいます。「急激に対立が広がっていてかなりやばいことになっている」という人もいれば、「昔からこうだったよ」という人もいます。
私はもうちょっと吟味してみたいので、その途中経過として、記録を残しておこうと思います。
9/ AIに期待されている役割について
自動車の登場が大衆にも旅行の自由を与えたり、洗濯機の登場が女性の余暇や学習の時間を増やしたり。これらの例は、テクノロジーが階級や人権の溝を埋めるような役割を果たしたものとして有名ですが、それと同じようなことをAIにも期待したいという話。
これにもし付け加えるとしたら、埋めるべき溝は、知能ではないと思うんですよね。なんとなく。
そうではなくて、個人でモノを創造する感覚を知らない人々(それには現在の社会で知能が高いとされている高学歴・ハイキャリアの人も含みます。個人的には、メリトクラシーによるこのような無意識の差別による表現を好まないわけですが、言及されているツイートにそのように書いてあるのでここでのみそのように書きます)に、その感覚を知ってもらうこと、そして創造を継続してもらうことによって、つながりがもたらされるんじゃないかと思ってます。UGC狂ゆえに。
あとがき
柳田國男の『都市と農村』(1929年)を再読していて、やはり流石だなと思う箇所があったので連ツイで抜書しました。
都市を学びと休みの場所として、農村を努力し思索する場所にすることは、20世紀中には極めて難しいことだったように思いますが、現代の環境からすると実現可能性が高い状態にあるといえます。私にとっては、Web3やAI、クリエイターエコノミーやメディアもそのための道具です。だからこのニュースレターも飽きずに続けられている、という気がします。