いつも水曜日に発行していたものを、今週は変則的なペースでお届けします。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年11月30日〜2022年12月9日
1/ 経済がグローバル化しても、SNSはローカルであり続ける
グローバリゼーションは「マクドナルド化」のようにステレオタイプな「文化を均一化する」言説で語られていたことが多かったのですが、実はグローバリゼーションによってローカルな文化が花開きやすいという2010年の論考。この記事で書いたことは、いま振り返ってもまったく正しかったことはその後の10年間、たとえば日本のアニメ文化の流れを見てもわかると思います。
佐々木俊尚さんが2010年に書いたエッセイを、2022年時点で「まったく正しかった」と振り返っています。
その2010年のエッセイでは、『フラット化する世界』(翻訳 2006年)を引いて次のように書いています。
フリードマンが言おうとしているのは、こういうことです。YouTubeやiTunesなど、コンテンツを共有するためのプラットフォームがグローバル化していく中で、アメリカに住んでいようが中国に住んでいようが、はたまたアフリカにいようが、安価にコンテンツを発信し、楽しみ、そして共有することは世界中のだれもが可能になっていく。そのためのコストはどんどん低下しているし、国ごとの違いはほとんど関係ないーー。
彼の主張は、従来から言われてきた「グローバル化」の懸念とは真っ向から対立しています。従来は「グローバル化によって世界中の文化が統合されてしまい、国ごと民族ごとの独自性が失われてしまう危険性がある」と言われてきたのですから。
現時点において、私が控えめに思うことは、インターネットのプラットフォームが普及してたかだか10年くらいでは、生活する身体が所属する文化が完全に脱色されてしまうことはなさそうだなと。
一方、『SpotifyやApple Musicの台頭で「古い音楽」を聴く人の割合が急増しており文化停滞の危険があるという主張』もあります。文化が統合されてしまうことはなさそうだけど、「クリエイター・パラドックス」という創造的余剰のなかでの文化的停滞が起こってしまうこと(週間メディアヌップ#30)については、別の心配があるんじゃないかと思います。ちなみに私はフラットであることが終わればいいのに、という主張を持っています。詳しくは「もしそれが峠だったら」にて。
2/ ウィキペディアで町おこし、ご当地ネタをネット発信 各地で取り組み
Web2.0の申し子「Wikipedia」が登場したのが2001年。それが町おこしの道具として熟れるのに21年かかった計算です。Web3にも同じくらい時間がかかるのか、それとも、それよりは早いのか。
3/ 東浩紀さんが語るツイッター限界論 無料サービスで「言論は死ぬ」
我田引水ならぬ、我シラス引ツイッター(語呂が悪い)。同意する部分もあるのですが、この記事を読んでから『一般意志2.0』(2011年)を含む東浩紀さんの本をすべて本屋に売ってきました。自分がなんでそういう行動をしようと思ったのか、あとで時間を作って書くか話すかしてみたいと思います。
4/ なぜトレーディングカードゲームにお金を払う必要があるのか?
私が本ニュースレターでしょっちゅう「マジック:ザ・ギャザリング」の話をする理由がずばり書かれてあるスレッドだったのでとりあげました。なぜならそれは「ユーティリティ(プレイ)」「コレクション」「投資」という3つの価値で構成されているからです。NFTとそっくりなのがわかると思います。

5/ 世界最大web3イベント DCentral マイアミ2022 日本語レポート速報
昨年は5000人を集めたというDecentral Miamiの2022年版レポート(参加者は何人だったんだろう?)。現在の雰囲気がわかるものとしてブックマークしておきたいと思います。2023年には日本で開催を企画中だそうです。
6/ Building A Virtual Machine inside ChatGPT
お描きAIに続いて話題のチャットAI。拙著『僕らのネクロマンシー』において、機械的知性との会話を少し先まで想像した私としては、いまのところあまり大きな驚きはなかったのですが、この記事に書かれてある「ChatGPTがLinuxのVirtual Machineとしてふるまう(それを扱うマネをうまくこなす)様子」には興味をそそられました。あとは「スライム語を発明する」というネタも。
個人的には、TRPGのNPC(Non Player Character)として使える日がくることを心待ちにしています。
7/ 2022年のビットコインとイーサリアムのレート
2022年のふりかえり。1月と比較すると、12月のビットコインが44%、同じくイーサリアムが42%という激しい下落を記録しています。「LUNA/Terraショック」と「FTXショック」が記憶に新しいところですが、それ以外にもいろいろあった2022年でした。来年もまた楽しみです。
8/ Starbucks Odysseyのベータテストがはじまる
USでいよいよベータテストがはじまり、その内容が少しずつ共有されています。店鋪を訪問してスタンプを収集するという点で「ロケタッチ」や「Game of the Lotus」と同系統のサービスともいえて、個人的に大注目しています。これがうまくいく場合にもそうでない場合にも、今後の試金石になるようなプロジェクトだと思っています。


9/「Twitterのタイムラインをごちゃごちゃにする仕事」は本当に実在したのか? 話題の元Twitterエンジニアに聞いた
私がlivedoor Blogのプロダクトオーナーをしていたときのテックリードというかチーフエンジニアというかアーキテクトがこのインタビューに回答している井原さんでした。井原さんらしいユーモアと、サービス精神と、エンジニアとしての誠実さが感じられる回答で最高だなと。答えられるぎりぎりのところまでを、無理解なバッシングを受けることも承知で、おもしろく、やさしく、嘘なく話している。脳内再生余裕な、声が聞こえるような内容でした。
昔は全世界を一つにつなげるというのを理想にしていたんですが、最近は無理だと思うようになりました。人間、ゆるやかなフィルターバブルの中で生きるのが幸せなんじゃないかって。
自分も同感で、最近はそれを「小盆地宇宙」とか「峠」という言葉を使って理解しています。
あとがき
山古志DAOの1周年記念オフ会に行ってきました。それまでアイコンと偽名で認識していた人と実際に顔をあわせるという、実にオフ会らしいオフ会でした。平面的なDiscordの世界から三次元空間のなかにひっぱりだされた感じがして、なんだかメタバースのなかをうろうろしているような感覚になりました。