2022年最後の配信です。いろいろと気がかりなことがあって夢中になって取り組んでいることがあるので、ぜんぜん一年が終わった気がしないのですが。
今週のナイン・ストーリーズ
2022年12月20日〜2022年12月28日
1/ 過去 10 年でデジタルマーケティングはどう変わった? マーケティング環境を振り返る
Googleがふりかえる10年の変化。おもしろいポイントがたくさんありますが、私はここを抜き出しました。
2019 年には、世界のオンライン人口の 27% がモバイルで音声検索を使うようになりました。
2009年には考えられなかった光景ですよね。話は次に続きます。
2/ A New Chat Bot Is a ‘Code Red’ for Google’s Search Business
こないだまでの「ChatGPTはGoogleの驚異にはならないよ」といった態度から一変し、「会話型の検索はGoogleにとってノックアウトファクターになる」と宣言して対策を急いでいるという話が聞こえてきました。会話型の検索には広告に誘導する“スペース”がないのは明らかですから、ゲームのルールが大きく変わるかもしれないというわけです。
ちなみに、拙著『僕らのネクロマンシー』では、会話で検索結果を提供する機械的知性をマーケティングの道具にするために、答えを汚染させるAIO(機械的知性最適化)と呼ばれる手法や仕事が登場します。また、機械的知性の会話に導かれて、ハーメルンの笛吹きよろしく集団自殺事件が起こる、というエピソードが登場します。
というように、私を含めて多くの人がずいぶん前から空想してきたBeyond Googleの景色がリアリティをもってきたことに、とてもワクワクしています。『僕らのネクロマンシー』を未読の方は、年末の読書にどうぞ。
3/ Crypto/web3、2023年に向けての所感、および反直感的なインサイト
特にDAOの分野に詳しいKinjoさんの2022年総括。特にこの部分に共感しました。
結論、以下のように公共財に向かう流れの過程にDAOがあるべきであり、DAOからスタートする、というのは基本再現性がないと考えています。
いまTONO DAOで起こっていることがこれなので、実感があります。デジ庁が開示している議論・見解も、概ね地に足についた議論になっており(参考)、狭義のDAOにこだわった原理主義的な意見が後退し少数派になっていることは、大きな前進なのではないかと、Webリアリストの自分としてはそのように感じます。
4/ Substackは過去1年間で上手くディスカバリー問題を解決した。
Substackが過小評価されすぎていることから、今年は2回ほど勉強会を開催したのですが、デモをみせるとみなさんだいたい驚いてくださいます。ニュースレター発行サービスの競争力は、ニュースレター作成機能以外のところに移り変わっており、試しに一通発行したぐらいでは真価がわからないようになっていますので、ぜひ第一印象だけに左右されず、試してみてください(いつの間にか気持ちはアンバサダー)。
そういえば「いまのところ、Substackは、独立した島のようなものだ。しかし」と書いた頃から2年半経って、着実に進化したなあ。
5/ 連載「未来は音楽が連れてくる」第74回 2022年、世界の音楽産業に起きた5大トレンド
昨年、流寓院ケイのペンネームで『未来は音楽が連れてくる』の書評を書きました(参照)。その著者、榎本さんの連載の最新回。
炭鉱のカナリアよろしく技術トレンドの影響を受けやすい音楽コンテンツ・音楽業界は、裏を返せば、あらゆるコンテンツや業界の未来を生きていることになります。その動向を追うのに最適な年末まとめです。
6/ 宇多田ヒカル、最新作が海外の年間ベストを席巻…「First Love」も再ヒットで迎える黄金期
今年、『BADモード』を実によく聴きました。アナログもすぐ手に入れて、配信とレコードの両方で繰り返し聴きました。その内容も含めて、今年1年だけでなく、この3年のコロナ禍をwholeで思い出してしまうような傑作。
NYTの翻訳記事。今年、メディアヌップで繰り返しとりあげた話題です。私がこの件に注目するのは、これら一連のことをUGCのもっとも醜い側面として他人事には感じないからです。
ちなみに、NYTや清義明さんの取材に対して、一部の事実関係の誤りを根拠に「そんなに悪いやつじゃないよ」という人物もいますが、そういうことではないんだよな。
8/ 頑張れば頑張るほど地域が元気に! ふるさと納税、住民税の収入上回る自治体も
秋田魁日報の記事。「寄付が貴重な収入源になっているだけでなく、地場産品の販売や配送業務など地域経済へのプラス効果が大きい。仙北市のファンになってくれたり、観光に訪れてくれたりするきっかけにもなる」というのが仙北市の担当者のコメントで、全体にふるさと納税のアップサイトに光を当てた記事です。
一方、ダウンサイドをとりあげたものにはこうした記事があります。
前者は都市部の流出について、後者は全体のなかで歪みが生じている部分について。
ふるさと納税制度について、制度上の問題点や改善点はもちろん存在することを認めたうえで、私はポジティブです。都市部の価値は都市部の人だけが生み出しているのではないのだから流出するのは当たり前だし、トップダウンでリバランスしてもいずれ歪みは生じるのだから競争を前提としながらルールを改善していく今のやり方が悪いとは言えない。そんな風に思っています。
今年は、自治体の声をたくさん聞く声に恵まれました。どこでも手に入るティッシュペーパーを大量に配送しながら、その土地のことは何一つ憶えてもらえない。軽いダンボールに対しての割高な送料。「これっていったいなんのために?」と思っている方がほとんどです。そうしたことが改善されていってほしいなと思います。
9/ カズオ・イシグロ「物語には“分断”に対抗する力がある」
現在のように分断された世界では、感情を揺さぶる物語を作るときに気をつけるべきことがあります。その感情を常に『真実』に結びつけることです。さらに、持つに値しない感情を意図的に揺さぶろうとする企てからは、身を守らなければなりません。そのためには、映画、本、テレビなどのコンテンツに批判的になることが求められます。
今年、ウクライナ戦争があったことで、「ナラティブにはナラティブで戦わねばならない」とするような威勢のよい「対抗ナラティブ論」が流行りました。それに対してメディアヌップではずっと批判的な態度をとってきました。
このインタビューでカズオ・イシグロは「物語(Storytelling)」という言葉を使って、勝ち負けや白黒をはっきりさせたりするための道具としてではない「物語」について語っています。自分を守ったり、批判的にものを考えられることであったり、曖昧さに耐えることであったり。
簡単には答えが出せない問題を、読むことを通じてくぐり抜け、何が結論かはわからないものの、読後に新しい目で世界を見ることができ、それがなぜなのかは説明はできないけれど深く納得している。物語にはそういうことができます。と、いうのは私の意見です。インタビューのなかにはありません。
あとがき
2022年は、ポッドキャストが75本と、記事が54本(リストはこちら)。それらを振り返ったまとめを書きたいなと思いながら、29日になってしまいました。
冬休みに気がのったらやります。